5センター最前線寅丸真澄・三好裕子/留学生のキャリア形成を支援する日本語教育CJL生6名であった。毎学期,大学院進学を目指している学習者や確定している学習者PBL活動と対話活動を重ねるうちに,次第に表情が柔らかくなって積極的になり,発話がら「私のキャリアビジョン」を紡ぎ出す実践であると言える。2-2-2.学習者の学び 本実践に参加した学習者は,2024年度春学期は23名,秋学期は20名で,内訳は,春学期が大学院生6名,学部生7名,CJL生10名,秋学期が大学院生5名,学部生9名,が1,2名参加しているが,他の学習者は国内外での就業を希望している。但し,履修者の背景や所属,学年等が異なっているため,キャリア意識の深浅の差は大きい。内定を受けている者や現在就職活動中の者,留学後の進路について考えたことがないという者まで様々である。また,本科目が対象としている上級レベル以上の学習者が多い半面,話し合いへの十全な参加が難しい学習者も散見される。 以上のように,本実践には特性や動機づけ,日本語レベルの異なる学習者が混在しているが,毎学期,ほとんどの学習者が「私のキャリアビジョン」を完成させて修了していく。遠隔のキャンパスから通う学部生や論文執筆で忙しい大学院生も含めて修了できているのは,クラスメイトと協働しながら自身のキャリアについて考えるという活動に意味を見出していたからであると考えられる。無論,そのような意味づけが最初からなされていたわけではない。学習者は実践の進捗とともに変化していったと言える。顕著に現れた変化として,次の四つが挙げられる。 一つ目は日本語コミュニケーションへの慣れである。学習者の背景や所属,学年等が異なっていたり,自身の日本語能力に不安を感じていたりするため,実践開始時は緊張しており,積極的に話している様子は見られない。しかし,コミュニケーションが必須となる量が増えていく様子が観察される。 二つ目は教室コミュニティ内でのラポール形成である。協働の機会が増えるとともに,他者の発言を聞き理解しようという意識が高められ,教室内のラポール形成が進んでいく。これにより教室内の心理的安全性が育まれ,自己開示を必要とする活動が円滑に進められるようになっていく。一般的に,自己開示を好まない学習者は少なくないと考えられるが,本実践の自己分析や経験を語る活動では,事実報告のみならず,自身の思考や感情のやりとりが行われ,活動後もグループ内で熱心に話し合う様子が見られるようになる。 三つ目は課題に主体的に取り組む姿勢である。興味の多少や得意・不得意等による個人差はあるものの,活動を重ねるに従い,全てが自身のキャリアビジョンを描くことに繋がっているという理解が進み,活動に積極的に取り組むようになる。ある学習者は,活動は時間と労力を要するので負担は大きいが,様々な課題を遂行することには知的興味と,自身のキャリアビジョンが「見えてくる」達成感を感じていたという。 四つ目はキャリア意識の深まりである。本実践の活動は全てキャリアビジョンを描くことに繋がっているため,活動ごとに自身のキャリアについて考え,他者のキャリア観に触れることになる。就業経験者へのインタビューでは,両親の仕事内容やキャリア観を聞いて感銘を受けると同時に,自身との異同を改めて認識したという学習者もいた。自他のキャリア意識が言語化されていくことで,キャリア意識が深まるようである。
元のページ ../index.html#9