早稲田日本語教育実践研究 第13号
8/106

4早稲田日本語教育実践研究 第13号/2025/1―10仮説をプロジェクトとして解決・検証していく学習」と言える。次節では,これら二つの実践における実践概要,学習者の学び,今後の課題を報告する7)。2-2.「PBLで学ぶビジネス・キャリア7-8」実践2-2-1.実践概要 「PBLで学ぶビジネス・キャリア7□8」8)は,留学生(以下「学習者」)のビジネス・キャリアを支援するためのPBLと対話9)を重視した日本語教育実践である。実践の目的は,自己・他者・社会についての理解を深め,PBL活動と対話活動を通して学習者が自己物語としての「私のキャリアビジョン」を描き上げることである。実践の過程では,(1)主体性とキャリア意識の涵養,(2)課題発見解決能力,異文化理解力といった基礎的汎用的能力の育成,(3)日本語によるビジネスコミュニケーション能力の向上が目指されている。また,「私のキャリアビジョンとは何か」についてまとめ,ポスターセッションとレポートという形式で言語化し,他者に説明することを到達目標としている。 実践は,毎週1回,2コマ連続で14回,計28コマで行われている。ビジネス場面で使用される日本語を学習する「ビジネスコミュニケーション学習」と,キャリア意識を深める「キャリア学習」に大きく二分できる。「キャリア学習」は4期に区分されており,Ⅰ期は「社会について考える」,Ⅱ期は「自己・他者について考える」,Ⅲ期は「企業・業界について考える」,Ⅳ期は「活動全体の振り返りと発表」である。 Ⅰ期には,まず教師が社会問題を取り上げて学習者の関心と理解を深め,その後に学習者が興味を持った社会問題についてグループで調査し発表する。これまでに取り上げられた社会問題は,人口,貧困,経済,環境,労働,多様性等,多岐に渡っている。 Ⅱ期には,自己分析,困難を乗り越えた経験の語り合い,及び就業者へのインタビューを行う。自己分析と経験の語り合いでは自己理解を深めるとともに,他者の意見や語りを聞いて自己を振り返ることができる。就業者へのインタビューでは,話を聞いてみたいと思った就業者の職業選択の動機や仕事内容,仕事での苦労や楽しさ,キャリア観等を聞くことによって刺激を受け,自身のキャリア意識を涵養することが期待されている。 Ⅲ期には,企業文化に関するケーススタディと企業・業界研究を行う。日本企業と海外企業の異同を知るとともに,異文化間コミュニケーションギャップを生じやすい企業文化の問題についてケーススタディを行い,理解を深める。また,それらの情報や学びを踏まえ,興味のある企業・業界について調査を行う。 Ⅳ期には,Ⅰ〜Ⅲ期までの活動内容を振り返り,これからキャリアをどのように築いていくのかという「私のキャリアビジョン」をまとめ,ポスターセッションとレポートとして言語化していく。ここで重要なのは,それまでの活動を総括することと,それを言語化するということである。科目履修前は全く考えていなかったり曖昧であったりした自身のキャリアが朧気ながら可視化されていくことが期待されている。 「私のキャリアビジョン」はPBL活動と対話活動により成り立っている。社会問題の調査発表や就業者に対するインタビューは,PBL活動を通して学習者が主体的に計画を立てて実施する。また,それらの活動報告や発表等を行った後は,さらに理解や考えを深めるため,グループで対話を行っている。本実践は,PBL活動と対話活動を縒り合わせな

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る