早稲田日本語教育実践研究 第13号
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3センター最前線寅丸真澄・三好裕子/留学生のキャリア形成を支援する日本語教育ら教室内外でのキャリア形成支援を行っている。 学内他機関の支援としては,全学生に対するキャリア形成支援を行う「早稲田大学キャリアセンター」が挙げられる。ここではキャリアに関わる説明会やワークショップ等とともに,留学生に特化したイベントや個別相談を行っている。時間は限られるが,英語での相談も受け付けており,日本語能力に自信のない留学生も相談することができる。就職活動のみならず,大学院進学に関する支援もなされており,就職活動や大学院進学についての知識を得たり,面接等の練習をしたりする場となっている(塩月・沈2023)。CJLとの連携も少しずつ深まっており,後述の「留学生のためのキャリアセミナー」のほか,「ビジネス日本語」科目の担当教員との懇談会を開催したこともある4)。 また,CJLの日本語自律学習支援施設である「わせだ日本語サポート」では,日々のセッションの中でキャリアに関する相談にも応じている。大学院生のスタッフによるピア・サポートの気軽さゆえか,来訪者の中には,学習相談の際,就職活動や進学について質問する者もいる。また,「わせだ日本語サポート」では,キャリアセンターと共同で「留学生のためのキャリアセミナー」というイベントも開催している。このセミナーでは,キャリアセンターの専門職員による説明や情報提供とともに,留学生の先輩の就職活動や大学院進学の体験談が聞けるため,留学生から好評を得ている(寅丸・吉田・井上2025)。 一方,教室内のキャリア形成支援としては,主にテーマ科目群5)の「ビジネス日本語」科目,及び「アカデミック日本語」科目が挙げられる。これらのカテゴリーに分類されている科目は,いずれもビジネス・キャリアやアカデミック・キャリアで必要とされる日本語能力の向上を目指している。ビジネス・キャリアに関しては,「ビジネス日本語」科目として,ビジネスコミュニケーションや待遇表現の学習をはじめ,経済記事の読解を通した社会学習や就職活動に必要な知識,スキル,姿勢を学ぶ科目等,多様な科目を提供している。アカデミック・キャリアに関しては,「アカデミック日本語」科目として,学術的な場面で必要とされる四技能の向上を目的とした科目提供を行うとともに,中級から上級レベルの総合科目群においても,高等教育機関の使命として,基礎的なアカデミック・ライティングとプレゼンテーションの教育を行っている6)。 これらの中でも,特にライフキャリアの観点から,ビジネス・キャリアとアカデミック・キャリアそれぞれに必要な日本語能力,基礎的汎用的能力の育成に重点を置いた科目が「PBLで学ぶビジネス・キャリア7□8」,「PBLで学ぶアカデミック・キャリア7□8」である。これらはこれからの知識基盤型社会を支え繁栄させていく「21世紀型市民」(文部科学省2008)の育成を目指して開講された。21世紀を担う市民とは,「自身のWell-beingを実現し,他者と価値を共創し,社会のWell-beingに貢献できる市民」(寅丸2024:65)と捉えることができる。強靭なアイデンティティと主体性,社会の課題を発見し解決できる課題発見解決能力,他者理解としての異文化理解力,他者との協働を実現するコミュニケーション能力といった基礎的汎用的能力を備えた人材であると考えられる。 これら二つの科目では,以上のような人材育成を目的として,PBL(Project-Based 活動であり,溝上(2016:11)によれば,「実世界に関する解決すべき複雑な問題や問い,Learning,以下「PBL」)を重視した実践を行っている。PBLとは課題解決を目的とした

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