3.履修者の様子4.まとめ早稲田日本語教育実践研究 第13号/2025/61―62 62スといった「人間の心理・知覚」と連動するようなデザイン,バリアフリーやパラスポーツなどの「障がいと社会」について考えることができるデザイン,学期終盤ではエコロジカルデザインやグリーンインフラなどの環境保全に関する「暮らし」のデザインを扱い,最後は「誰もが同じように使える」ユニバーサルデザインについて考える。様々なデザインのみを紹介するというのではなく,それに紐づけられる事柄や背景についても知識を深め,考えることができるように設定している。また,授業におけるプレゼンテーションでは,あるデザインが真に有用である(あるいは不足があり,改善の必要がある)ことを他者に伝え,納得させることがひとつの目標となる。それを日本語という外国語で達成するためには,論理や手順に欠けた説明ではやはり難しく,理路整然とした構成と論理,そして聞き手に合わせた言葉選びが複合的に求められる。この技術を養うことはいわゆる上級レベルの日本語学習者においても容易ではなく,アウトプットと試行錯誤を重ねることが必要と考えられる。本授業の履修者には,建築など「ものづくり」を専門とする学習者のほか,デザインというテーマを物珍しく感じて受講を決めたというケースが多い。本授業では,6□8というレベル設定のため,全体的に学習者のレベルは高めであるが,それでもかなりの開きが見受けられることもある。しかし,いずれの履修者も非常に協力的で,それぞれの国の文化や習慣に根付く独特のデザインについて紹介し合ったりすることで,お互いが話す内容についての興味を途切れさせることなく,モチベーションを保つことができた。また,学期中のプレゼンテーションは計4回あり,矢継ぎ早におこなわれるため,その準備はかなり大変なものになるが,短期間に発表を重ねることで,自分の悪癖や苦手なところが浮き彫りとなり,自覚をもつことができるようになったという声が多い。そして,デザインに興味をもつようになった結果,日本の有名な建築物を見てまわるようになったという履修者がいたり,自分の生活や学習を将来の目標に合わせてデザインしてみたくなったというコメントもあった。デザインはあらゆるものに内在しており,また,自分たちの生活のどこにでもあるものだが,あるもののデザインについて,なぜそのようなデザインが採用されているのか,考えをめぐらせることはほとんどないのではないだろうか。しかし,これまで少しも意識していなかったことに,実は明確で合理的な理由が隠されているということを知るのは,好奇心や知識欲を満たす意味でも非常に楽しいことである。デザインは学習者に驚きや刺激をもたらし,学習意欲を引き出す格好の材料となり得るのである。(くぼ けい,早稲田大学日本語教育研究センター)
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