早稲田日本語教育実践研究 第13号
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2早稲田日本語教育実践研究 第13号/2025/1―102.CJLにおけるキャリア形成支援 CJLでは,留学生の増加と多様化という近年の状況を踏まえ,学内他機関と連携しなが このような留学生と企業,ひいては社会との調整は,日本や自国に関わらず生じ得る。その際に必要になるのは,物事を「自分ごと」として捉える主体性3)や,自身がどこでどのような仕事をしたいのかというキャリア意識であり,課題発見解決能力,異文化理解力といった基礎的汎用的能力であると考えられる。さらに,仕事や研究を円滑に進められる言語コミュニケーション能力や,大学や大学院で培ってきた専門分野の知見や経験であろう。日本語教育の観点から言えば,専門分野の知見や経験以外に主に三つの観点からのキャリア形成支援が可能であると考えられる。1点目は主体性とキャリア意識の涵養である。2点目は基礎的汎用的能力の育成である。3点目はキャリアの方向性に応じた日本語能力の向上である。キャリアの方向性とは,ビジネス・キャリアかアカデミック・キャリアかといった留学修了後の方向性である。 ビジネス・キャリアを前提とした日本語教育では,自分ごととして物事に取り組む主体性やキャリア意識の涵養に加え,ビジネス・キャリアで必須とされる課題発見解決能力,国内就業やグローバルな職場で期待される異文化理解力といった基礎的汎用的能力が重要である。さらに,ビジネス場面で円滑なコミュニケーションを実践できるビジネスコミュニケーション能力が育成されれば,日本語のビジネス環境でキャリアを拓ける可能性が高まると考えられる。 一方,アカデミック・キャリアを前提とした日本語教育では,研究に取り組む姿勢を育むことに加え,研究課題を見つけ究明していくための課題発見解決能力等の基礎的汎用的能力の向上が期待される。また,アカデミック・レポートの作成や発表に必要とされる日本語能力は必須である。中国では近年,大学や大学院が就職難の学生を一時的に吸収するバッファの役割を果たしており,海外大学院の中で特に増加しているのが,距離が近く経済的負担の少ない日本の大学院への進学であるという(斎藤2023)。その結果,国内では大学院進学を目指す留学生が増えており,アカデミック・キャリアのための日本語教育の需要も拡大していると考えられる。 では,以上のような留学生のためのキャリア形成支援をどのように行っていけばよいのか。本稿では,CJLにおいて開設された,留学生のビジネス・キャリアとアカデミック・キャリアを支援する日本語教育実践について報告する。 なお,本稿では,グローバル人材としての留学生のキャリア形成支援について検討することから,国内外での就業や進学を含めたキャリア形成支援が想定されている。また,キャリアを「個々人が生涯にわたって遂行する様々な立場や役割の連鎖,及びその過程における自己と働くことの関係付けや価値付けの累積」(文部科学省2006:3)と捉える。また,「キャリア形成支援」,「キャリア教育」とは,「個人が自己の知的,身体的,情緒的,社会的な特徴を一人一人の生き方として統合しながら,生涯において様々な立場や役割を遂行していく」(文部科学省2006:3)ための支援や教育と考える。2-1.留学生のためのキャリア形成支援

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