3.クラス状況と今後の課題早稲田日本語教育実践研究 第13号/2025/51―52 52表1 「私の好きを語ろう書こう」活動抜粋① イメージマップを書く私の好きな「場所」ときいて思い浮かぶキーワード,キーフレーズを書く。② マップをもとにペアで書いた内容を共有する<書くべきポイントを提示>① 「好きな場所」はどのような場所か(その場所を② 好きな場所と自分との関係,出会いのきっかけ③ 好きな場所で,印象に残っている具体的なエピソード(どうして「好き」なのかが分かるようなもの)④ 自分にとって「好きな場所」の意味グループで読みあうクラスメイトや教師からのフィードバックをもとに書き直す(ながみね のりこ,早稲田大学日本語教育研究センター)知らない人のために説明)などに読み合い,言いたいことが読み手に伝わっているのか,やりとりを重ね確認する。また,内容についてよかったこと,もう少し詳しく書いてほしいことなどをコメントしあう。(宿題が提出された後は,個別に教師が語彙や文法のミス,不明点をフィードバックし,内容についてのコメントをつけて次の授業までに返却している。)2週目私の好きな「場所」について考える宿題①授業で話したことをもとに「私の好きな場所」について,A41枚(800字程度)の作文を書く。(右記①〜④のポイントに沿って書く)➡授業までに教師からのフィードバックを返却3週目宿題①読みあい宿題②宿題①書き直し学習者は意欲的に取り組み,話し合いも活発であった。1回目の話し合いでは,ランダムに様々なクラスメイトと話せるようにした。2回目に作文を読みあう際は,同じようなトピックで書いてきた人でグループを作るようにした。そして,「好き」の気持ちを共感できる喜びを得ること,その「好き」に関わる語彙や表現の多様なあり方をお互いに学びあうことを目的とした。授業後の振り返りやアンケートでは,「好き」という気持ちをお互いに交換できたこと,(相手の興味のあるなしを気にせず)遠慮なく「好き」の気持ちを話し,共感し合えたことは,とても嬉しかったという肯定的な意見が多くみられた。また同じ「好き」の対象でも,その背景や理由などは様々であることを知り,自分の考えを深めたり,見直したりすることもできたという意見も散見された。そして,話し合いがきっかけでお互いに共通の興味があることを知り,学期終了後も関係性が続いていることもよく耳にする。個人の文脈から生まれた言葉のやりとりは,その先にある人間関係のつながりをも生み出す。自分にとって大切な語彙や表現を習得し,話し合うことは,学習者自身の生活,人生を支えるものにつながる可能性がある。ただ,当然全ての話し合いが「共感」ばかりのものではなく,話し合いが停滞することもまれに見られた。必ずしも悪いことではないと考えるが,「共感」できない場面での言語活動に,どのように教師として寄り添っていくのか,もう少し試行錯誤を重ねていきたい。
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