早稲田日本語教育実践研究 第13号
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早稲田日本語教育実践研究 第13号   科目名:私の好きを語ろう書こう3-4  レベル:初級1・2/中級 3・4・5/上級6・7・8  履修者数:35名口頭表現は,単に話すだけの能力が求められるものではなく,会話や対話,スピーチといった話し手と聞き手のやりとりも重要になる表現活動である。初中級クラスの口頭表現練習といえば,ロールプレイなど決まった場面やタスクにもとづいた練習がよく行われる。しかし本クラスでは,「練習」のやりとりではない,リアルで主体的なやりとりを目指し授業をデザインしている。ここでいうリアルで主体的なやりとりというのは,学習者の個別の文脈からくる,学習者自身が表現したいことがテーマとなったやりとりである。そのため本クラスでは,表現するテーマやトピックについて「好き」という,学習者の肯定的な気持ちに支えられたものに焦点を当てた。この肯定的な気持ちに支えられたテーマは,学習者の表現意欲を促す。表現意欲に支えられた言葉のやりとりは,伝えたい,理解したいという気持ちを強く動機付け,「伝えられた」「理解できた」という肯定的な感情をもたらす。ここで得た肯定的な感情が,その先の学習者の日本語学習意欲をさらに促し,その先につながる生活,そして人生をより豊かにすることを目指す。授業の目的としては,1)「私の好き」というテーマをもとに,自分にとって大切なものを表現するための語彙や表現を習得する,2)自分のいいたいこと,考えていることを他人にも分かりやすく話せるようになる,3)相手が話したことを理解し,わからないこと,聞きたいことを質問できる力をつける,などをあげている。この「好き」というテーマやトピックは,どんな食べ物や音楽が好きかなど,日常会話でもよく話題になるものである。しかし本クラスではさらに,「好き」の理由,背景をじっくり振り返り,考えることで自分の価値観を見つめ直すきっかけを得ることも視野にいれている。また学期の最後には,今まで話して書いてきたトピックの中からひとつを選び,クラス全員に伝えたいことを口頭発表する。授業は2週で1つのトピックを扱う(表1)。流れとしては,1週目にその回のトピックについて個別にイメージマップを書き,マップをもとにクラスメイトと書いたことを共有し,自分の「好き」のイメージや背景を把握し深める。2週目は,宿題の作文をお互い―表現意欲に支えられた言語活動―1.はじめに2.授業の目的とクラス概要51実践紹介長嶺 倫子「私の好き」を伝え合う

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