注早稲田日本語教育実践研究 第13号/2025/49―50 3.学生の学びと今後の課題50の人とコミュニケーションを取るときの人間関係と場の違い,気持ちの違いから考え,意識するように促す。その結果,尊敬語の「〜(を)なさいますか」と丁寧語の「〜(を)しますか」の違いに気づく。尊敬語は相手,第三者を高くする気持ちで彼らの行為について述べ,目上の人だと認識していることを伝える働きがあることが理解できるようになる。敬語の働きが理解できるようになると,気持ちを込めてコミュニケーションが取れるようになる。2-2.コミュニケーションのための口頭表現練習敬語について学び,人間関係と場について意識できるようになったあとは,場面に応じた敬語を選択できるようになることに重点を置いて,口頭練習を行っている。取り上げる場面は,前の学期までの学生の意見を参考に教員が決めている。自己紹介する,キャンパスを案内する,アルバイトの面接を受ける,店員として客に対応するなどである。キャンパスを案内する活動では,交互にガイドになる。大人の見学者たちに図書館,演劇博物館などを案内するという設定なので,学生たちはそれぞれの場所について調べ,敬語を使ってどのように表現するか考え,実行する。学期末には「自分が生まれ育った町」についての発表を行っているが,旅行者に自分の町の観光スポット,レストランなどについてプレゼンテーションをするという設定で,全員が評価者となり,コンペティションを行っている。内容とともに適切な敬語が使われているかどうかが評価項目となる。学生からは,人間関係や場から敬語を考えることによって「敬語の基本的な働きが理解できた」という意見と,ペアやグループワーク,および発表によって「だれにどのような場で,どのような気持ちで述べるのか意識できるようになった」という意見があった。今後の課題としては,口頭練習のときの学生の組み合わせである。2,3レベルのクラスであるが,敬語を基本から学びたいという4レベル以上の学生も多い。彼らの中にはペアの相手やグループのメンバーへの配慮をせずに,自分のペースで話してしまう者もいて,初級後半の学生はあまり参加できないこともある。学生たちの会話力,性格を把握し,機能するような組み合わせにすることが課題である。 1) 本稿の「場面」という術語は,蒲谷(2013)の「『人間関係』に関する認識と『場』に関する認識が融合したもの」という考えに基づくものである。 2) 2007年2月2日に文部科学省の文化審議会において作成され,文部科学大臣に答申された「文化審議会答申」でのことである。 参考文献蒲谷宏(2013)『待遇コミュニケーション論』大修館書店.(ふくしま えみこ,早稲田大学日本語教育研究センター)
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