早稲田日本語教育実践研究 第13号
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1センター最前線早稲田日本語教育実践研究 第13号  本稿の目的は,早稲田大学日本語教育研究センター(Center for Japanese Language,以下「CJL」)における留学生のキャリア形成支援のための日本語教育について報告することである。 国内の外国人留学生(以下「留学生」)は,「留学生10万人計画」(1983年),「留学生30万人計画」(2008年)を経て,2019年に31万人を超えた(日本学生支援機構2020)。以降,Covid-19の感染拡大により減少したものの,第6回教育未来会議(2023年)では,2033年までに40万人の受け入れが目指されることとなった。 高等教育機関では,今後ますます増加,多様化する留学生の需要や特性に合った教育を提供すべく,新たなプログラムやコースの設置を進めている。留学生の多様化により,学位取得を目的とする留学生や日本語未習者も増え,英語学位プログラムや日本語未習者のための日本語コースの需要が高まっている。しかし,留学生の需要や特性に合ったプログラムやコースの新設だけでは,十全な留学生活を提供できるとは言えない。留学経験をライフキャリアの観点から意味のあるものにするためには,修了後のキャリアを見据えたキャリア形成支援と,留学生活や修了後のキャリアに資する日本語教育が必要になると考えられる。留学生の進路は国内外での就業を目指すビジネス・キャリアや,大学院進学を希望するアカデミック・キャリア等様々であるが,いずれはどこかで職を得,自身のライフキャリアを歩んでいかなければならないからである。 急速に進む少子高齢化や社会のグローバル化,技術革新を背景として,国内労働市場における留学生の雇用に対する期待は高い。留学生の6割が国内就職を希望していると言われるが,未だ目標とする5割には届いていない1)。その根底には,留学生,企業,教育機関の「ずれ」の存在が想像される(寅丸他2019)。例えば,留学生は日本独特の就職活動やメンバーシップ型の雇用体系,能力主義によらない給与体系,上下関係を重視する企業風土等に対して違和感を持つ傾向があるとされる(守屋2020)2)。このような留学生と企業の「ずれ」を軽減するためには,企業の制度的,慣習的,文化的変革が必須である(小平2015)が,留学生側の調整力も求められる。主体的に就職情報を収集して自身に相応しい業界や企業を選んで就職し,仕事で生じる課題を解決しつつ,専門分野の知見や経験を生かして異文化社会で生きていこうとする姿勢である。また,企業が求める日本語能力を身に付けていることも期待される(ディスコキャリタスリサーチ2024)。―ビジネスキャリア・アカデミックキャリアを目指すための日本語教育実践―1.本稿の目的と背景寅丸 真澄・三好 裕子留学生のキャリア形成を支援する日本語教育

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