早稲田日本語教育実践研究 第13号
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2.授業の実際早稲田日本語教育実践研究 第13号/2025/43―44 44に言いあえる環境を学生同士が自分の言葉で発信しあって創り上げていくことがコミュニケーションとなっていく。「場への信頼」が生まれると「メンバーに応答したい」気持ちになる。授業は教師と学生が共に創り上げていくものである。教師は学生が発信したくなるような環境(問いを立てる,グループ分け等)整備を行い,一人一人の振り返りシートに返事を書くことでその日の各人の活動を認める努力を行う。2-1.発信しやすい「場」 自分のことばが使える「場」授業はほぼ毎回アイスブレイクから始まる。始めのうちは恥ずかしいとあまり動かなかった学生も,回が重なるにつれて列を作ったり大声で歌ったり走り回ったりするようなゲームに真剣に取り組みながらリラックスした時間を楽しむようになった。ここでその回の活動グループを結成するため,クラスメイトの誰とでも発信し合えるような環境が創られていく。24年度春学期を例に挙げれば,9windowsでお互いの理解が広がり,哲学的質問の答えから互いの考えの違いに気づき,理解し合うことにより他者受容が広がり,お互いを尊重しあう空気が出来上がった。避難所の地域ボランティアをしている,大学院入学を目指す学生という設定でのクロスロードでは,ボランティアを続けるか止めるかで大きく二つに分かれた。「大学院はあとからでも入れる。今,自分がやるべきことは,今困っている人の役に立つことだ。」「院に合格するのが今私のやるべきこと。親の期待に応えたい。」「ボランティアは余裕のある人がやることだ。」「いや,そういう考え方でやるもんじゃないと思う。」等活発なやり取りがなされた。授業後の提出課題,振り返りシートの記述からも自分の伝えたいことが増えていく様子が認められた。2-2.「ここで友達ができた」最後のフィールドワークは期末の最も忙しくなる時期の活動となる。エリア決め,日程合わせ等が難しい中での実行は,お互いの協力,譲り合いが必要となるが,この一連の活動でコミュニケーションの密度は高まっていく。振り返りシートに発表日が待ち遠しい等の記述があり,発表後にクラスメイト全員からのコメントを読む姿は楽しそうだった。「このクラスで初めて友達ができた。」「授業が本当に楽しかった。」等のコメントから自分の居場所が確保され自分の言葉を発することができた喜びや充実感が伺われた。「友達ができた」ことは留学生活の大きな支えになるだろう。それは学生一人一人が自分と向き合い,心を開くことができるクラスを共に創り上げた所産であるかもしれない。(えばら みえこ,早稲田大学日本語教育研究センター)

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