早稲田日本語教育実践研究 第13号
44/106

3.おわりに早稲田日本語教育実践研究 第13号/2025/39―40 40の日本語のインプット(本授業のプロジェクト活動も含む)を意識的に捉えられると考えられる。まず,第2回〜4回の授業では,対面状況(初対面・既知)と非対面状況の会話について取り上げた。「はじめて会う人と話す」では,初対面会話で気を付けることや難しいと感じていることについて意見交換をした後,情報提示のバランスを考え,共通点を見つけながら話すことを練習した。また「知っている人と話す」では,大学生活で見聞きする学生同士の話し方について共有をした後,文末表現や助詞の省略,指示詞の使い分けに気を付けながら,既知の間柄でのカジュアルな会話の練習を行った。第4回の「電話やオンラインで話す」では,日本での留学生生活で接する電話やオンラインのコミュニケーションについて各自の経験を話し合い,相手と異なる場にいる状況の話し方について確認した。これらの場面別の授業を通し,話者や状況,対人関係に応じて,どの様な日本語コミュニケーションが適切であるかを考えた。2-2.多人数(グループ)でのコミュニケーション第5〜7回では,後半週に実施したプロジェクト活動の事前指導に結び付ける形で,スピーチ,インタビュー,ディスカッションの日本語を扱った。「スピーチの表現」では,聴衆に向けたコミュニケーションとして,自分の情報をわかりやすく伝達し,質疑応答を行う練習を行った。また「インタビューの表現」では,クラス内の学生を対象にグループワークでのアンケートを行い,データの集計や考察を通して,数値の表現や質問の仕方等を指導した。「ディスカッションの表現」では,「日本の制服」や「ラッピング(過剰包装)」などの文化的なテーマをもとに,自分の国との比較や,考えを述べるディスカッションを行った。各回はいずれも多人数(グループ)でのコミュニケーションを中心としており,学習者自身が話すだけではなく,相手の意見を聞いて整理し,意見をまとめていく力も求められる。意見交換の際には,時折英語や母語が混ざる様子が見られたが,内容を重視した話し合いを目指すことを目標に授業を進めた。本稿では,プロジェクト活動を前提とした,場面別のコミュニケーション指導について紹介した。初級段階から日本語の話し方の違いや留意点に目を向け,学習者同士で意見交換を行うことは,今後の日本語学習を支える上で非常に重要な機会となると考える。授業では各回の成果物に加え,コメントシートやプロジェクトレポートの評価も行った。今後も,学生の内省や具体的な気づきに着目し,自律的な学びに結び付く授業となるよう努めていきたい。参考文献中井陽子(2023)「会話教育のための授業デザインと実践」中井陽子編著『日本語の会話授業のデザインと実践―基礎から発展へ―』19-25,スリーエーネットワーク.(よしだ むつみ,早稲田大学日本語教育研究センター)

元のページ  ../index.html#44

このブックを見る