4.考察33ショート・ノート三好裕子/語を使えるように学ぶための「言葉の練習問題」問題:A教授は,ブラックホールの謎を解明した研究に取り組んでいる。( ) *正解は「×」で,「解明した」を「解明する」に直す。この問題については,どちらのクラスでも,答えは「〇」と不正解であった。クラスAでは,まず「謎」と「解明する」の共起関係をninjal4)で確認したそうである。「謎」を調べたところ,「謎を解明する」が多数使われているのを見て,「解明する」は「謎」に使えることを確認したとのことであった。次に,助詞が問題なのかもしれないと考え,「を」でよいことを確認して,「〇」にしたとのことであった。一方,クラスBの担当グループでは,メンバー全員が「〇」だと考え,それを確認していた。まず,「解明する」の意味を確認し,「謎」「研究」という語と一緒に使えるだろうと考えた。そして,後ろが「研究」という名詞であったことから,「解明した」という普通形で問題ないと判断した,ということであった。この問題においては,どちらのクラスの担当グループも,複数の観点で検討を行っていた。すなわち,クラスAでは共起関係と助詞,クラスBでは意味,および意味による共起関係,後続の語との接続における語形の適切さに注目し,検討していた。それにも関わらず正解できなかったのは,この問題が語の使い方ではなく,連体修飾節の動詞の時制の問題だったからだと思われる(この点については,次章で考察する)。分析により,グループで話し合っても正解できなかった理由の一つとして,注目した点についての問題が解決すると,それだけで安心し,他の点についての検討をしない場合があることが分かった。つまり,複数の点に同時に注意を向けることが難しいのである。実際に文を作る際には,語の意味や形,共起関係などに同時に注意を向けることが必要であることを考えると,それができないことは問題である。今回の問題は,語の使用の際に注目すべき点への「気づき」を促すことを目指したものであったため,何に注目すべきかを学習者に考えさせた。しかし,ある程度問題を繰り返し,気づきが得られた後には,注目すべき複数の点に目配りすることが習慣化するよう,注目すべき点をリストにして示し,複数の点に注目して語の使い方に問題がないかを点検する問題をさせるのが有効かもしれない。そして,ある程度注目すべき点が定着したところでリストをなくし,複数の点への目配りが必要な問題をさせるのがいいのではないかと思われる。また,「解明する」の問題であるが,どちらのクラスでも正解できなかった原因は,設問自体にあったと考えられる。この問題の正解は「謎を解明した研究に取り組んでいる」の「解明した」を「解明する」に直すというものである。文末の時制が「取り組んでいる」と現在であることを考えれば,謎が解明されたか否かの知識に関わらず,正解できたはずである。つまり,この問題は,連体修飾節の時制の規則に関する知識も問われるものだったのである。この「言葉の練習問題」について,学生は語の使い方を学ぶものだと認識していたと思われる。そのため,「解明する」という語の形としては,名詞に接続するから普通形で問題ないと判断したのであろう。この問題は,語の形の規則のみではなく,文の時制の規則の理解が必要な問題だったのである。時制の規則の理解は重要ではある
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