早稲田日本語教育実践研究 第13号
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3-1.片方のクラスが誤った問題3-1-1.「伴う」の問題における話し合い問題:時代の変化を伴い,人々の意識も変わった。(  )     *正解は「×」で,「を伴い」を「に伴い」に直す。この問題について,クラスAでこの問題を担当したグループは,答えは「×」で,「を伴い」の「を」を「に」に変える必要があると正しく答え,一方,クラスBは,「〇」と誤った答えを出した。正しく答えたクラスAでは,一人の学生が,理由は分からないが,助詞は「を」ではなく「に」ではないかと言い,他の学生がnatsume3)で「時代の変化に伴い」という例を見つけたことで,正解することができていた。一方,クラスBでも,助詞が「を」か「に」かについて話し合っていた。話し合いでは,まず「変化」と「伴う」の共起関係を確認していた。そして,一人が「変化を伴う」という例が見つかったことから「を」でよいのではないかと言い,それに対し,問題は「伴う」ではなく「伴い」なので,「に伴い」なのではないかという意見が出ていた。しかし,この時,もう一人が「を伴い」の例があったと報告し,「を伴い」でよいという意見が出て,「を」のままでよいという意見の方が多かったことから,「に」だと考えていた学生も意見を変えたとのことであった。どちらのクラスでも,助詞に注目し,「を伴う」でよいかを辞書やネットを用いて検討していた。正解できたクラスAでは,「に」だろうという感覚的な予想を基に調べ,「時代の変化に伴い」という例を見つけたことで,正解することができ,クラスBは3人のうち2人が「に」がよさそうだという感覚を持っておらず,「を伴い」の例があったことから,それ以上の検討をやめていた。つまり,正解できたかどうかは,助詞の使い方についての一種の勘が働くようになっていたか否かの違いだったことが分かった。また,この問題は,「変化を伴う」「変化に伴う」のどちらの結びつきも存在し得るため,助詞のみでは判断できず,文脈によりこれらの結びつきのいずれが適切かを考える必要があった。しかし,いずれのクラスでも,そこまでの検討はされていなかった。3-1-2.「満たす」の問題における話し合い問題:きれいな水が池に満たしている。(  )    *正解は「×」で,「池に満たして」を「池を満たして」に直す。この問題を担当したのは上述した「伴う」とは異なるグループであったが,この問題でもクラスAは「×」と正しく答え,クラスBは「〇」と答えて不正解であった。正解したクラスAのグループでは,最初に一人が「満たす」は他動詞で「人が何かをいっぱいにしている」という意味だから,「水が満たしている」は間違いで,「満たされている」にすべきだと主張した。それに対し,もう一人の学生が,池の状態を言っているから,「水が池を満たしている」でも大丈夫なのではないかと言い,その後はどのように直すべきかについて話し合っている。このように,クラスAでは最初から答えは「×」だという前提で話し合いが進んでいた。一方,クラスBのグループでは,「満たす」は「コップを満たす」のように小さい容器をいっぱいにするとき使い,池には使えないのではないかという意見が出て,「池をいっ30早稲田日本語教育実践研究 第13号/2025/27―34

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