25ショート・ノート小宮千鶴子/連語への気づきを促す指導の試み表5 発表会で紹介された連語の例察しがつく,心地よい眠りが訪れる 音楽を紡ぐ,脚光を浴びる,魔法の世界に浸る愛が芽生える,周囲を巻き込む,現実に立ち向かう包丁の腹,息をのむ美しさ,着心地が良い20S12」などがあった。本指導によって未知語が理解語に変わり,理解語がうまく使える日本語に変わって,全体として使える日本語の増加につながったと思われる。多義動詞の複数の用法に関しては,明確な記述のある回答はなかったが,唯一「同じ動詞だけど違う名詞と組み合わせるなら全然違う意味を持つことになるのは有意義。14F05」のみ多義動詞の複数の意味に触れている。基本義と派生義に関しては,グループ活動を担当した大学院生から派生義の連語のほうが学習者の関心が高いとの指摘があり,宿題を添削した筆者の印象も同様である。学習者が多義動詞の派生義の連語学習に熱心なのは,基本義の用法に比べて派生義の用法学習が不十分(杉村ら 1998)なためだろう。文章からの連語抽出指導は,自律学習における連語への気づきを促すことが目的だが,クラスでは同一教材による一斉指導を行い,仕上げとして新聞投書の抜粋から好きな連語を5つ取り出す宿題を課した。2012年度より継続して同じ教材を用いたため,学習者が適切に取り出しにくい連語には,次の傾向があることが明らかになった。文章中で構成要素の単語が隣り合う連語は,多くの学習者が適切に取り出せた。一方,構成要素の単語が離れていて間に他の単語があると,連語抽出の対象にならないことが多かった。「夫が借りていたヤミ金融からの督促の電話が,身を寄せていた私の実家や働いていた職場にかかってくるようになり,(以下略)」から「電話がかかる」と取り出せた学習者は少数だった。さらに,「必死で捜し,夫の友人を通じて生きていることだけは分かったが,私には連絡をくれなかった。」から「友人を通じて分かる」と取り出せた学習者はほぼ皆無で,「友人を通じて生きる」と誤った。「〜を通じて」は機能語の類で中級文法の学習項目だが,学習者はこの「通じて」を一般の動詞と誤解したようである。では,そのように連語抽出能力が必ずしも十分でない学習者は,「私の連語集」の課題でどのような連語を取り出したのだろうか。表5は「私の連語集」の発表会で紹介された連語の例である。それらは学習者が好きな小説や雑誌,レシピなどから取り出したとっておきの連語だが,中級後半の学習者には難しい語も交じる。彼らは好きな連語という動機づけによってその難しさを乗り越えたのだろう。学習者にとって本指導は,正に「連語はたくさんあるから,先生がちょっと紹介して,私たち自分で連語集を作ってとても役立つと思います。2012S05」なのだろう。提出された「私の連語集」には,文章中で構成要素の単語が隣り合う連語が多かったが,表5のような豊かな連語が得られれば,十分であろう。表4の学習方法に分類された回答には,「連語(単語ではなく)という勉強し方が身につけました。これから授業以外の勉強し方に最も有意義だと思しはす。15F09」「learning の連語抽出が学習者に自律学習の方法と捉えられたのは,幸いである。not only new vocabulary but also a new self-learning method. 12F08」などがあった。文章から
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