早稲田日本語教育実践研究 第13号
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2.「使えることばの増やし方5-6」の概要3.連語への気づきを促す指導1:連語による多義動詞の用法指導20早稲田日本語教育実践研究 第13号/2025/19―26る語彙の学習に忙しく,教師も自律学習の指導を行う余裕がない。前述のLewis(1997)の文章や談話を連語などに区切る指導法は,インプット中の連語に気づかせ学習者の自律につながる(Eyckmans, 2010)。ただ,文を連語などに分解する練習は,文法が苦手な学習者にはなじみにくいので,本指導では文章から関心ある連語のみ取り出す方法に変えた。以下,本指導を試みた科目の概要,連語への気づきを促す2つの指導,「私の連語集」の課題,連語への気づきを促す指導の結果について述べる。「使えることばの増やし方5□6」は,早稲田大学日本語教育研究センターに2023年度まで設置されていた,語彙学習に特化した中級後半(N2程度)の学習者対象の日本語科目である1)。授業は半期15回2)が1年度に2回繰り返され,到達目標は次の2つである。  ①中級で学んだ重要な動詞の意味や使い方を連語で学ぶ。  ②自分に必要な連語を自分で選べるようになる。授業形態は,2019年度までは対面授業,2020年度以降は同時配信のオンライン授業である。クラス活動は次の4つで,4)は授業形態によって発表内容が異なる。  1)よく使われる中級の動詞の意味や使い方を連語で学習する。  2)インターネットで連語を調べる方法を学習する。  3)好きな連語を集めて「私の連語集」を作る。  4)「私の連語集」の中から連語を選んで発表する。クラス活動の1)は到達目標①に対応し,連語の説明から始めて10〜12回行う。2)以下は到達目標②に対応する。2)は学期半ばに1回行い,同時に「私の連語集」の課題説明もする。3)の「私の連語集」の作成は授業時間外の個人作業だが,クラスでは学期前半から必要な連語を文章から抽出するための指導を7回程度行う。4)は最終回の発表会で,対面授業ではテーマ別グループ発表,オンライン授業では個人発表である。学習者数は,2012年度から2023年度までの22学期3)の平均で33.5名で,漢字圏と非漢字圏の学習者が混在した。授業には,筆者の大学院担当科目の履修者(日本語教育学専攻)も毎回参加し,用法提示の実習やグループ活動の司会を担当した。成績評価の内訳は,授業への参加度30%,宿題35%,「私の連語集」の作成20%,発表15%である。連語による多義動詞の用法指導は,用法の提示,練習,宿題の3つの部分からなる。対面授業では宿題の後に小テストを実施したが,オンライン授業では廃止した。本章の指導報告の内容は,オンライン授業のものである。3-1.指導対象の多義動詞の選定 指導対象の多義動詞は,中級で学習する和語動詞とし,単純動詞のほか学習者が苦手な複合動詞もほぼ毎回取り入れた。対象動詞の主な選定資料は,次のとおりである。

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