早稲田日本語教育実践研究 第13号 連語は自然で流暢な言語使用に重要だが,学習者は連語を意識しにくい。そのため,連語への気づきを促す指導が教室学習だけでなく自律学習のためにも重要である。本稿では,連語への気づきを促すために試みた,連語による多義動詞の用法指導と文章からの連語抽出指導について報告する。 キーワード: 連語,気づき,自律学習,多義動詞,連語抽出連語(コロケーションともいう)は,自然で流暢な言語使用に重要であり,近年,言語学習における重要性が注目されている。連語という用語の意味はさまざまだが,本稿では複数の単語が文法的に結びついたものとする。連語は,単語の結びつきの固定度と全体の意味によって,「本を読む」などの自由結合,「傘をさす」などの固定的結合,「道草を食う」などの慣用句の3つに分類される(大神 2021)。連語は語彙指導に有効だが(三好 2007),連語の多くを占める自由結合と固定的結合は,構成要素の単語の意味から全体の意味がわかるので,学習者はインプット中の連語を意識しにくい(Laufer & Waldman, 2011)。同様に,不正確な連語を用いても言いたいことは伝わるので,学習者はアウトプット中の連語の問題にも気づきにくい(Laufer & Waldman 前掲)。そのため,連語への気づきを促す指導が重要である。連語への気づきを促す指導法には,文章中の該当箇所に下線を引いたり太字にするなどして強調する方法や(Boers et al., 2017),文章や談話を連語などのかたまり(chunk)に区切る方法(Lewis, 1997)などがある。下線などによる強調は,強調された特定の連語への注意を引くが,学習者が大学生なら,複数の連語学習から一般化して連語という言語の捉え方を意識し,その有用性に気づくのも容易なのではないか。そこで,本指導では,連語による多義動詞の用法指導を通じて連語への気づきを促すことを試みた。多義動詞は学習者にとって習得が難しい。用法指導は基本義に限られ,派生義の意味理解や使用は読解教材等の中で適宜学習する。一般的には1つの動詞の用法を体系的に見直す機会がなく,派生義の用法は理解語にとどまって使用語に至らない(杉村・赤堀・楠見 1998)。だが,連語を用いて多義動詞の用法を体系的に指導すれば,学習者にも基本義と派生義との関係がわかりやすく,派生義を使用語に変えることが可能かもしれない。学習者に必要な語彙は学業や職業,生活などによって異なり,生涯にわたって変化するため,教室学習には限界があり,自律学習が重要である。だが,学習者は教科書に示され―多義動詞の用法指導と文章からの連語抽出指導―要旨1.はじめに19小宮 千鶴子ショート・ノート連語への気づきを促す指導の試み
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