8早稲田日本語教育実践研究 第13号/2025/1―103.まとめが,2回目の発表では1回目と比較して日本語力の向上を感じさせる発表が多い。また,グループでの話し合いも,学期開始当初は日本語以外の言語の使用が少なくないが,次第に複雑な内容も,日本語で話し合うことが増えてくるようである。二つ目の変化は,他人と協働することの難しさや,他人の意見を聞くことの重要性への気づきである。グループでの調査活動の後の振り返りでは,ほとんどの学習者が,グループワークにおける反省点やコミュニケーションの大切さについて記述し,コミュニケーションに関する気づきがあったことがうかがわれる。そして,三つ目の変化はキャリアとしての大学院進学についての考えの深まりである。大学院で行う研究調査,発表,レポート執筆を模擬的にではあるが体験することで,大学院での活動がどのようなものかを知り,大学院進学を現実的な方向とするかどうかについて,各々が考えを深めるようである。実際に,学期開始当初は大学院に進学すべきか迷っていた学習者が,ビジネスに目標を定めることにしたと報告してきた例もあった。このように,本実践を通し,学習者のそれぞれが自らのキャリア形成や日本語学習に関する気づきや成果を得ることができると言えるであろう。2-3-3.今後の課題 本実践をさらに学習者にとって有益なものとするために,現状における問題点を二つ挙げる。第一に,読解力の強化である。現状でも研究計画のモデル文を読む活動やグループでの調査活動の中などで日本語の文章を読む機会はあるが,大学院で多くの日本語の文献を読む必要があることを考えると,十分とは言えない。読解のスピードや正確性に問題がある学習者もいることから,読解の過程を伴う課題を増やすなど,読解力の強化のための工夫が必要だと思われる。第二に,学習者が受動的な態度になる場面をできる限り減らすことである。レポートで使う表現などの日本語の知識やレポート作成の方法などの技術的な事柄は,考えることではなく,決まりとして覚えることであるため,教師側から必要な情報や知識を与える形で指導する場合がある。そのような場合は,学習者は積極性を欠き,学習内容の定着の程度も高くないように思われる。学習者が,常に能動的に,自ら何かを得ようとする意志を持って学べるような教授スタイルを模索したい。 本稿では,CJLにおける留学生のキャリア形成支援のための日本語教育について報告した。留学生の増加と多様化が急速に進む現在,高等教育機関では,多様な留学生の需要や特性に合ったプログラムの開設が進められると同時に,留学後のキャリアを見据えたキャリア形成支援と,留学生活や留学後のキャリアに関わる日本語教育が喫緊の課題となっていると言える。CJLでは,教室内外において留学生のビジネス・キャリア及びアカデミック・キャリアの支援を行っているが,その一つがPBLによるキャリア支援科目の開講である。本稿では,開発途上ではあるものの,特にこれら二つの実践の実践概要,学習者の学び,今後の課題について報告した。 二つの実践では,履修目的や学習者特性,日本語レベル等が異なっていても,学習者同士が主体的,協働的に活動し,到達目標を達成していたこと,及び,その過程で主体性と
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