早稲田日本語教育実践研究 第13号
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7センター最前線寅丸真澄・三好裕子/留学生のキャリア形成を支援する日本語教育レポートで使う文体や表現,レポートの構成や,引用の方法,参考文献リストの作成方法などを予め指導し,学習者はそれらの学習内容を用いてレポートを作成する。レポート作成に必要な知識も,講義形式で一方的に与えるのでなく,問題や課題を出し,グループでそれらの問題や課題に取り組む中で理解させるようにしている。また,レポート第1稿を読み合い,コメントし合う活動もしている。 ③研究計画案の発表は,一人一人が自分の研究計画案を立て,クラスで発表するものである。課題に取り組むにあたり,最初に,研究計画に何を書くべきかを理解させるため,研究計画のモデル文を読む活動を行う。その活動は,グループに分かれ,いくつかの研究計画のモデル文を各グループが一つずつ読み,読んだ研究計画の内容をまとめたポスターを作る。ポスターを見比べ,共通して書かれていることは何かを考えるというものである。次に,研究計画を立てる際に難しいのは研究の問いを立てることであるため,『実践研究計画作成法[第2版] ―情報収集からプレゼンテーションまで』などを参考に,問いの立て方を学ばせる。そして,クラスメイトと話し合いながら,各自が自分の研究の問いを立て,研究計画を作っていく。最後に,考えた研究計画案を発表し,自らの研究計画について考えを深める。研究計画を立てる方法を知ると同時に,発表のためのスキルを向上させることも,この課題の目的である。2-3-2.学習者の学び 本実践に参加した学習者は,2024年度春学期,秋学期ともに10名で,内訳は,春学期が大学院の科目等履修生4名,CJL生6名で,秋学期は大学院の科目等履修生2名,CJL生6名,学部生2名であった。大学院生以外では,大学院進学を目指すことを決めている学習者と可能性はあるが明確には決めていない学習者が半々で,大学院には行かないが高い日本語力を身につけるために履修したという学習者もいた。また,学期開始当初は日本語能力が7□8レベルに達していないと思われる学習者も数名混ざっていた。 上述のように,履修目的が本実践の本来の目的とは異なる学習者や,日本語力に不安のある学習者が混ざっていたものの,それらの学習者も途中で諦めることなく,最後まで課題に真面目に取り組んでいた。それらの学習者を支えたのは,間違いなくクラスメイトである他の学習者の存在であったと思われる。グループワークやペアワークの際は,学習者が熱心に,生き生きと話し合う姿が見られ,笑顔が多く見られたことが印象的であった。学期が進むにつれ,ラポール形成が進んだことがうかがわれた。 本実践においては,学習者が課題に主体的に取り組む様子が見られた。その要因として,本実践が,自らの興味・関心に基づき,それについて考え,表現する場になっていたことがあると思われる。グループでの調査活動では,各自の関心によって学習者同士の話し合いでグループを作らせ,調査のテーマも学習者自身の疑問から生まれたものであった。また,研究計画案を作る課題で,自分が疑問に思うことを「研究の卵」として出す活動では,疑問に思う点を積極的に教師に投げかけてくる学習者や,授業の終了時間を忘れて話し合う学習者の姿もあった。 本実践により,学習者に共通に見られた個人的な変化として,以下の三つがあると思われる。一つ目は日本語力の向上である。本実践では課題として2回の発表の機会がある

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