早稲田日本語教育実践研究 第13号
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6早稲田日本語教育実践研究 第13号/2025/1―10 以上,四つの変化は,本実践が意図している(1)主体性とキャリア意識の涵養,(2)課題発見解決能力,異文化理解力といった基礎的汎用的能力の育成,(3)日本語によるビジネスコミュニケーション能力の向上,という学びがなされていることを示唆している。個人によって学びの広がりや深まりは異なると想像されるが,本実践の活動を通して,本実践の到達目標が達成されている様子がうかがわれる。2-2-3.今後の課題 留学生のキャリア形成に資する実践として,本実践をより良くしていくためには,二つの課題があると考える。第一に,ビジネスコミュニケーション学習とPBL活動・対話活動の2種を有機的に結びつけることである。コミュニケーション学習はどの活動においても行われているが,二つのアーティキュレーションを強化することによって,学習上の動機づけや相乗効果が期待できると考えられる。第二に,レベル差やキャリア意識に差のある学習者同士が協働するためには,どのような実践デザインや配慮が効果的なのかという課題である。これは多様な学習者がもたらす豊かな学びをいかに創出していけるかという課題でもある。引き続き,これらの課題を改善,解決すべく検討を重ねていきたい。2-3.「PBLで学ぶアカデミック・キャリア7-8」実践2-3-1.実践概要 「PBLで学ぶアカデミック・キャリア7□8」は,学習者同士が協働して課題に取り組むことを通し,大学院で学ぶのに必要なアカデミック・スキルを身につけると同時に,自らのアカデミック・キャリアについて考えることを目的としている。また,課題に取り組むことによる課題発見解決能力,主体性の育成や,多様な背景を持つクラスメイトとの協働によるコミュニケーション能力の育成や異文化理解の促進など,汎用的能力を育成することも本実践の狙いである。 本実践は,「PBLで学ぶビジネス・キャリア7□8」と同様,毎週1回,2コマ連続で14回,計28コマで行われている。実践の内容は,大きく二つの部分に分かれる。一つ目は課題に取り組む活動のパートで,課題として,①グループでの調査・発表活動,②レポート作成,③研究計画案の作成と発表の三つがある。もう一つは課題を行うのに必要な日本語や研究活動に関する知識を得るための学びのパートである。研究活動を行うのに必要なアカデミック・ジャパニーズ,具体的には,レポートや発表で用いる日本語,発表の方法や研究の遂行に必要なスキルなどを,指導や課題への取り組みを通して身につけていく。 課題①グループでの調査・発表活動は,学習者が関心を持っていること,調べてみたいと思っていることを出し合い,興味・関心の近い者同士でグループを作り,グループで一つのテーマを決めて調査を行うものである。調査目的となる問いを立て,調査の意義や方法を検討し,調査を進める。教師は毎週グループ活動の進捗を報告させ,調査の進め方についてアドバイスを与える。報告書はレポートで使用する文体・表現を使うようにさせ,添削指導を行う。そして,調査結果をグループ発表の形で発表させ,研究発表の体験をさせる。発表の前には,スライドの作り方や発表での話し方などを指導しておく。 ②レポート作成は,グループでの調査を個々にレポートにまとめることが課題である。

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