早稲田日本語教育実践研究 第12号
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2早稲田日本語教育実践研究 第12号/2024/1―2 「好きな作家は村上春樹です」るため,日本語能力は学部の入学要件には含まれていない。日本で暮らす外国人学生達は否が応でも日々,日本文化に触れている。言語がわからなくとも文化の一端は経験できる。およそ 20 年前になるが,私は学術振興会の特別研究員としてフランスのマルセイユに一年間滞在したことがある。一年という短い滞在のため,研究成果を出すために研究活動が忙しくなり,フランス語の勉強に時間を割くことができなかった。それでも,フランスで経験した文化の香りは今でも脳裏に刻み込まれている。しかし,サン = テグジュペリの『星の王子様』を原文で読めないことは口惜しく思う。国際教養学部の外国人学生のなかには早稲田大学に入学してから日本語の勉強を始める学生も多い。外国人学生は,日本語教育研究センターで毎学期 6 単位の日本語クラスを受講する。日本語教育研究センターで提供される日本語を学ぶ科目は「総合科目群」と「テーマ科目群」に大きく分類されている。「総合科目群」にある「総合日本語」では,学生は週 3 〜 5 コマ集中的に受講しており,国際教養学部の学生にとって日本語教育研究センターは第二の在籍学部のようであろう。また,「テーマ科目群」においては,「友だち言葉で話そう」のような日常生活で有用な日本語を学ぶクラスから,「研究レポート・研究論文の基礎(実践)」や「就職を考える:調査編」など,非常に高度な日本語を学ぶクラスまで幅広く提供されている。このような手厚い教育のおかげで,外国人学生は学部の卒業時までに日本語の 4 技能を習得し,日本語能力試験 JLPT にも挑戦している。中には最も難しい N1 レベルの試験に合格する学生もいるそうだ。これまで,数人の外国人学生から聞いた。日本語で読んでいるらしい。早稲田大学の国際化において,日本語教育研究センターの貢献は計り知れない。一方,外国人学生の増加にともない,日本語教育研究センターで提供される初級の日本語科目を受講できない外国人学生が多くなっていると耳にした。早稲田大学の更なる国際化を推進する上で,日本語教育研究センターの役割は非常に大きく,今後の益々の発展に期待したい。今年の夏,ソウルに行き,再び友人に会った。日本に帰国したのち,村上春樹の最新刊『街とその不確かな壁』を読んだ。参考文献村上春樹(2012)『辺境・近境』新潮文庫(いなば さとし,早稲田大学国際学術院)

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