3.最終レポート4.今後の課題46の後,作文について教員からの明示的なフィードバックをもらい,自然な日本語について更に考えてもらう。授業では前述した作文を用いたグループ話し合いを,それぞれの文型項目に合わせて 4回行い,最終レポートを提出することになっている。レポートは,「母語と日本語の差について」というテーマの下,授業で扱った 4 つの文型項目のうち一つを選び,母語との比較について述べる。この作業を通して学習者は授業で学んだ日本語の性質について更に理解を深め,かつ母語との比較を通して,ある状況や場面の出来事を日本語で発言する際の違いについてより明確に気付くことができる。実際に学習者のレポートを見ると,中級レベルなりに日本語と母語との文法的な差に注目し,かつ授業で扱った文型項目に対する理解も深まっていることが窺われた。本科目は,筆者自身が留学生であった時期に感じていたことがベースになり,着眼したものである。最近は学習者のニーズの多様化,そして様々なコンテンツから日本語学習が簡単にできるようになったが,それでもなお,高等教育機関で学ぶ日本語教育は差別化が必要だと思っている。日本語話者のように自然な日本語で話せるようになるためには,本稿で述べているように,日本語話者が好む事態把握の明示的指導は欠かせないと考える。本科目では,日本語の文型の中でも最も日本語話者の事態把握が際立つ文型のみを取り扱っているが,今後は更に文型項目を増やし,学習者の自然な日本語に貢献できる授業として努めていきたい。参考文献池上嘉彦(2006)『英語の感覚・日本語の感覚<ことばの意味>のしくみ』NHK ブックス池上嘉彦(2011)「日本語と主観性・主体性」澤田治美(編)『ひつじ意味論講座第 5 巻 主観性と主体性』ひつじ書房,49-67.近藤安月子・姫野供子・足立さゆり(2014)「韓国語母語日本語学習者の事態把握-日韓対象言語調査の結果から-」『日本認知言語学会論文集』第 14 巻,373-382.(ちょん じぇひ,早稲田大学日本語教育研究センター)早稲田日本語教育実践研究 第12号/2024/45―46
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