早稲田日本語教育実践研究 第12号
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1巻頭エッセイ「日本語が読めるっていいですね」「Haruki Murakami」彼の一番のお気に入りの作家だ。「日本語で村上春樹の本が読めるのが羨ましい」早稲田日本語教育実践研究 第 12 号 数年前,韓国ソウルに遊びに行った時に,韓国人の友人に言われた言葉だ。日本人だから日本語ができるのは当たり前かと思ったが,彼の家の本棚に目を移して理由が明らかになった。本棚には,日本人作家の翻訳本がたくさん並んでいた。一番目を引いたのは私も,村上春樹の本が好きである。とくに,旅行記。彼の描写する人や街が好きだ。本を読む視覚からの信号が他の感覚に伝わり,音,匂い,味まで感じられるところが好きである。例えば,「メキシコ大旅行」を読んでいると,武装警官がバスに乗り込んでくる場面では身の毛がよだつ思いがし,「ノモンハンの鉄の墓場」で描かれるうじゃうじゃと現れる虫には,心底虫酸が走る。翻訳によって作家の思いを読み手に完全に伝えるのは難しいといわれる。村上春樹の旅行記は海外のものも多いが,日本を旅するものも多い。『辺境・近境』に掲載されている「讃岐・超ディープうどん紀行」は,香川県の讃岐うどんを食べまくるという旅行記である。「こしこしこしこしと大根おろしをおろした」(p. 142)とか,「朝っぱらから石の上に腰掛けてうどんをずるずるすすっていたりする」(p. 174)なんて表現は,日本に住んだことがないと理解するのが難しいだろう。現在,早稲田大学には 105 カ国 / 地域出身の 6100 名を超える外国人学生が在学している。外国人学生は 35 にわたる学部,大学院に所属しており,それぞれの夢を叶えるべく勉学に励んでいる。外国人学生の所属先として最も規模が大きいのは私が学部長を務めている国際教養学部で,約 1000 名の外国人学生が所属している。国際教養学部は,英語だけで学位を取得できる学部として 2004 年に設立され,2024 年には設立 20 周年を迎える早稲田大学の中で最も新しい学部である。国際教養学部の講義は,すべて英語で提供され国際学術院長 稲葉 知士日本語教育研究センターへの期待

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