早稲田日本語教育実践研究 第12号
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実践紹介―事態把握の概念を中心に―1.授業概要2.授業の流れ45早稲田日本語教育実践研究 第 12 号   科目名:日本語文法における視点 3-4  レベル:初級 1・2 /中級 3・4 ・5 /上級 6・7・8  履修者数:31 名日本語は,ある状況・場面を主観的に捉え表現する傾向が,他の言語に比べて強い言語であると言われている(池上(2006,2011),近藤(2014)など)。本科目は,このような日本語母語話者(以下,日本語話者)が好む主観的な捉え方(以下,主観的把握)を学習者に明示的に指導し,ある状況・場面において「どうして日本語話者はこの文法を使って表現するのか」,「どうして日本語話者はこのような表現を好むのか」について理解を深めることを目標としている。本科目は,認知言語学の事態把握(construal)という概念を基に,日本語話者と学習者の捉え方が異なるとされる「授受表現・ヴォイス(受身/使役/使役受身)・ナル表現・日本語話者の「見え」:主語「私」の使用」の 4 つの項目を取り扱っている。そして,本科目のシラバスには「この授業は新しい文法を学ぶものではなく,初級レベルで学習した文法項目を見直すものである。ある状況・場面においてどうして日本語はこの文法を使うのか,どうして日本語ではこのように表現するのかについて考える。」と明記し,必ず初級レベルを履修してから本科目を履修することを勧めている。本授業では,初回のオリエンテーションとして,ある漫画を見てそのストーリーを具体的にまとめる作文活動を行う。その後,グループで話し合いながら,同じ漫画を見て作文をしているが,漫画のストーリーのまとめ方はそれぞれ異なる,例えば注目している人物や,場面の出来事に対する解釈,即ち捉え方がまちまちであることを理解してもらい,本科目において最も重要なポイントとしている「気付き」について明示的に説明する。そして,前述した 4 つの文型項目について簡単な復習を行い,教員が提示する状況について日本語でどう表現したらいいのか,グループで話し合って発表する。教員は学習者と日本語話者の捉え方の差について明示的に説明し,日本語と母語との捉え方の違いについて気付きを促す。その後,それぞれの文型の産出を想定して作成した漫画を見て作文を提出する。次の授業では,その作文についてグループで発表・話し合いを行い,学習者同士で互いの異なる事態把握に気付き,それをコメント用紙にまとめて授業中に提出する。そ鄭 在喜日本語母語話者の視点における明示的指導の効果

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