早稲田日本語教育実践研究 第12号
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注ショート・ノート劉羅麟/学習者の母語を活用した音声特化授業の設計4.おわりに37うから き↓た りゅうが↓くせいです)」のように,アクセントの存在により語レベルでの上がり下がりがあるが,文レベルではピッチが下降していく。それに対して,中国語では「我是来自中国四川省的留学生(wǒ shì lái zì zhōng guó sì chuān shěng de liú xué shēng)」のように,漢字ごとに声調が付与されている。一文字目の「我」を例に言えば,その声調記号(ピンイン:wǒ,IPA:[uo˨˩˦])に示されるように,一音節の中でピッチが下がってから上がる。このように,いずれの言語でも文末にかけてピッチが徐々に下降していくが,声調(四声)の影響により,中国語は日本語よりもピッチの起伏が目立つと言える。そのため,授業では母語に影響され,日本語の文のイントネーションを不必要に起伏させないよう注意を喚起する(【注意点の説明】)。このような説明を行った後は,ほかの補助手段を用いて日本語のイントネーションを練習する。例えば,頭をイントネーションの下降に合わせて下げる方法や,スズキクン 7)を使ってイントネーションを表す線を引く方法などである。3-4-2.9 週目:イントネーションと感情イントネーションと感情に関しては,日本語について説明する前に,中国語における文の意味と発音との関係について学習者に考えてもらう(【導入練習】)。例えば,何を食べたかという質問に答える際の「拉麵」と,提案する際の「拉麵」と,相手の提案に躊躇する際の「拉麵」とでは発音が異なることを自覚してもらい,語調(イントネーション)という概念を導入する。続いて,日本語で同じ意味を表そうとする際に,例えば「ラーメン」を,どのようなイントネーションで発音するかについて考えてもらう。初級レベルや音声について学習した経験がない学習者の場合は,彼らにとってわかりやすいように,上昇調と下降調のみに着目する。特に疑問や提案を表す上昇調について,中国語では文全体が上昇するのに対し,日本語では文末の上昇が目立つ(ただし,アクセントは変化しない)と説明する(【注意点の説明】)。その後は文末のイントネーションに重点を置き,平易な動詞文,名詞文,「〜ですか」,「〜ですよ」を例に,上昇調と下降調を練習することが可能である。本稿では学習者の母語(母方言を含む)を活用した,音声に特化した授業の設計について報告した。授業を実施した結果(学習者の反応,発音や聴取の変化など)については稿を改めて述べたい。また,研究の第一歩として中国語話者を選択したが,今後は英語や韓国語など他言語話者を対象に研究と実践を続け,研究成果を教育現場に還元したい。  1) 本稿は,早稲田大学特定課題研究助成費(2022E-035)による研究成果の一部である。  2) 例えば,母語である中国語の母音に影響され,拗音「ゅ」と「ょ」の発音が曖昧になり,両者の混同が起こる場合がある。  3)この方法の考案においては,戸田(2004:21-22)を参考にした。  4) 中国語話者の日本語学習者の場合,学習初期に日本語のアクセントを⓪①②③調のように

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