早稲田日本語教育実践研究 第12号
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3-3.6 ~ 7 週目:アクセントの単元3-3-1.6 週目:アクセントの基礎,初級名詞のアクセントアクセントの基礎に関しては,日本語のアクセントが中国語で「音調」や「声調」に訳されることが多いため,中国語の声調とは同じ概念だと誤解されやすい。そこで,例えば日本語の「マ」と中国語の「ma」を単体で発音し,アクセントと声調の変化が生じうるか学習者に考えてもらう。そのうえで,中国語の声調は音節内の高低変化であるのに対し,日本語のアクセントはモーラ間の高低変化だと説明し,中国語の四声をそのまま日本語(東京方言)の 4 つのアクセント型(平板,頭高,中高,尾高)に当てはめないよう注意を喚起する 4)(【注意点の説明】)。例えば,日本語の平板型は実は 1 拍目と 2 拍目の高さが異なり,平らな中国語の一声とは異なる。また,一つの語で一度下がったアクセントは二度と上がらないという点は,下がってから上がるという中国語の三声と異なる。初級名詞のアクセントに関しては,上記で習った内容を踏まえ,アクセント型別に発音の練習を行う。その際,中国語由来の単語を敢えて練習材料にし,中国語の声調に影響されないよう強調する(【注意点の説明】)。例えば,「ラ↓ーメン」を中国語の「拉麺(lā miàn)」のように「ラーメ↓ン」と発音しないことや,「しんごう」を中国語の「信号(xìn hào)」のように「し↓んごう」と発音しないことなどである 5)。3-3-2.7 週目:人名のアクセントの規則,複合名詞のアクセントの規則人名のアクセントの規則に関しては,日本語について説明する前に,自身やクラスメートの中国語の名前を発音し,その声調に規則があるか学習者に考えてもらう(【導入練習】)。続けて,日本語の人名を例示し,発音しながらその規則について考えてもらう。両言語の比較を通して,母語の中国語では人名の声調に規則がないが,日本語の人名はアクセントの下がらない「0 型」(例:「わたなべ」)と,後ろから 3 拍目で下がる「-3 型」(例:たか↓はし)に大別されると説明する。中国語の人名に関する導入を省くことは無論可能だが,自身の名前の声調について考え,語り合う時間を設けることにより,日本語との対比が生まれ,学習者の興味を引き立てることも可能となる。これは,学習の促進以外の,情意面における母語の活用の効果である(劉 2023a:205-206)。複合名詞のアクセントの規則に関しては,日本語と中国語を比較し,中国語では二つの名詞が複合名詞に融合しても声調の変化が基本ないが,日本語では複合名詞にアクセントの変化が伴う場合が多いと説明する(【注意点の説明】)。説明する際は,日中両言語に漢字表記という共通点があるため,「北京大学」などの漢字語彙が使いやすい 6)。中国語では声調の変化がないのに対し,日本語では「ぺ↓きん+だ↑いがく=ぺ↑きんだ↓いがく」のようにアクセントが変化することが対照的で,学習者にとって理解しやすい。3-4.8 ~ 9 週目:イントネーションの単元3-4-1.8 週目:イントネーションの基礎イントネーションの基礎に関しては,アクセントの単元で学習した内容を踏まえ,日本語と中国語における文レベルのピッチ(声の高さ)の変化を比較する。例えば,日本語では「私は中国の四川省から来た留学生です(わ↑たしは ちゅ↓うごくの し↑せ↓んしょ36早稲田日本語教育実践研究 第12号/2024/31―38

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