早稲田日本語教育実践研究 第12号
39/90

3-2.4 ~ 5 週目:子音の単元3-2-1.4 週目:清音・濁音清音・濁音に関しては,例として日本語の「た」と中国語の「他」を,そして「だ」と「搭」を比較し,それぞれ同じ音かどうかについて考えてもらう。ローマ字とピンインの表記では同じように見えるが,日本語は無声音・有声音の音韻対立であり,中国語は有気音・無気音の音韻対立である。両者が同じだと誤解し,母語の基準で日本語の音を弁別しようとすると,清音・濁音の混同に繋がると説明する(【問題原因の説明】)。ところが,日本語の無声音・有声音の区別が声帯振動にあると説明するだけでは,多くの学習者が理解しづらいと感じる。そのため,学習者に自身の母方言について内省してもらい,方言の音を発音しながら声帯振動を把握するという方法を取る(【導入練習】)。方言の音としては,閩語の「肉包」[bah.pau],呉語の「帯」 [ta] と「大」 [da],西南官話の「神」 [sen] と「人」 [zen] などが使える。方言に無声音・有声音の対立がない学習者は,普通話の「痩肉」 [ʂou.ʐou] が使える。声帯を振動させない/させる方法を把握できたら,それを日本語の清音・濁音の練習に応用する(【発音方法の応用】)。ただし,ここで挙げた歯茎摩擦音 [s]・[z] やそり舌摩擦音 [ʂ]・[ʐ] は,声帯振動の有無で区別するという点において日本語の清音・濁音と共通するが,音自体は異なる。母語(母方言)の発音方法を最初,うまく日本語に応用できないと感じる学習者もいる(劉 2023c)。この場合,母語の音をそのまま日本語に用いるのではなく,母語の音を通して声帯振動を理解してから,その発音方法を日本語に応用することに留意する必要がある。その際,教師による個別サポートが重要となる。3-2-2.5 週目:ナ行音・ラ行音ナ行音・ラ行音に関しては,普通話にある /n/ と /l/ の区別(例:「南」と「藍」)が自身の母方言にもあるか,学習者に各自発音しながら確認してもらう。その区別がない場合,母方言の影響で日本語のナ行音・ラ行音を混同することがあると説明する(【問題原因の説明】)。続けて,普通話の /n/ と /l/ の語を用いた練習を通して,息を鼻から通す/口から通すという発音方法を把握する(【導入練習】)。/n/ と /l/ の区別がないように見える方言でも,母音 /i/ の前では区別することがあるので,普通話の /n/ と /l/ の代わりに自身の方言の /ni/ と /li/ を使うこともできる。さらに,練習の補助として,鼻を手でつまみながら発音し,非鼻音の /l/ は問題なく発音できるが,鼻音の /n/ は発音しづらいことを確認する。このように,鼻音と非鼻音の発音方法を把握できたら,それを日本語のナ行音(鼻音)・ラ行音(非鼻音)の練習に応用する(【発音方法の応用】)。一方で,母方言に /n/ と /l/ の区別があり,日本語のナ行音・ラ行音を混同しない学習者の場合は,その学習ニーズに応じて一歩進んだ練習を行うことも可能である。日本語のラ行音は異音として側面接近音の [l] もあるが,多くの場合では,はじき音の [ɾ] が用いられている。そこで,中国語の [l] は舌を歯茎に付けて発音するが,日本語の[ɾ]は舌で歯茎を弾いて発音すると説明する(【注意点の説明】)。35ショート・ノート劉羅麟/学習者の母語を活用した音声特化授業の設計

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る