早稲田日本語教育実践研究 第12号
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34早稲田日本語教育実践研究 第12号/2024/31―38ka])が促音に類似していることを提示し,その要領で促音の発音を練習する(【発音方法「さっか」)で意味が変わると説明する(【注意点の説明】)。促音の重要性に対する意識化が促されるが,その発音が難しいと感じる学習者もいる。そこで,呉語,粤語,閩語などの中国語の方言では,入声(にっしょう)を含む語の発音(例:閩南語の「国家」[kok.の応用】)。ただし,サ行の前の促音は摩擦音を持続させると注意する。3-1-2.2 週目:長音,撥音長音に関しては,日本語と中国語の比較を通して,中国語では音を伸ばす(例:「輸送」 [ʂusʊŋ] と「輸〜送」 [ʂuːsʊŋ])ことで強調を表せるが意味は変化せず,日本語では長音の有無(例:「ゆそう」と「ゆうそう」)で意味が変わると説明する(【注意点の説明】)。多くの日本語学習者にとっては,長音を発音できるかというよりも,母語にない日本語の短音・長音の音韻対立を十分に意識できるかという問題が肝要である。そこで,母語を敢えて日本語のリズムに変えて発音するという方法で練習する(【発音方法の転用】)。例えば,中国語話者には中国語の地名を使うのが効果的である(例:中国語の「成都」 [ʈʂhɤŋtu] を日本語の「せいと」のように「成〜都」 [ʈʂhɤŋːtu] と伸ばす)。馴染みのある母語を馴染みのない発音に変えることにより,母語の言語習慣にない発音方法に意識が向く。リズム感覚を掴んでから日本語の地名を練習すれば,短音・長音の違いを意識して発音するようになろう。撥音に関しては,日本語と中国語を比較し,中国語では鼻韻母の有無(例:「中西」と「中心」)で意味が変わると同様に,日本語でも「ん」の有無(例:「ちゅうし」と「ちゅうしん」)で意味が変わると説明する(【発音方法の説明】)。ただし,中国語では鼻韻母の有無で音節の長さが変わらないのに対し,日本語では撥音を付けると 1 拍増えるため長く発音する必要があると強調する(【注意点の説明】)。その後は上記の長音と同様に,母語の中国語を敢えて日本語のリズムに変えて発音するという方法で練習する(例:中国語の「北京」を日本語の「ぺきん」のように「北京〜」と伸ばす)。3-1-3.3 週目:拗音,リズムの総合練習拗音に関しては,中国語のピンインの考え方から出発し,分けて 2 音節で発音するのと合わせて 1 音節で発音するのと(例:「西安」 [ɕi.an] と「仙」 [ɕian])では意味が変わることを学習者に想起してもらう。続けて,日本語の拗音(例:「ひやく」と「ひゃく」)もこれと類似していると説明する(【発音方法の説明】)。ただし,日本語の拗音には中国語にない音があり,一概に母語の音で代用しようとすると発音上の問題 2)が生じやすいと注意を喚起する(【注意点の説明】)。リズムの総合練習に関しては,3­1­1 〜 3­1­3 で述べた学習内容を復習したうえで,日本語と中国語の外来語を用いた練習 3)を行う。例えば,日本語の「オリンピック」と中国語の「奥林匹克」を比較すると,中国語は漢字 4 つで 4 音節だが,日本語は「リン」が 2 拍のうえで「ピック」に促音が入る。このリズムの違いを意識しながら発音を練習する。

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