早稲田日本語教育実践研究 第12号
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3.授業における母語の活用33ショート・ノート劉羅麟/学習者の母語を活用した音声特化授業の設計図 2 母語の活用方法の枠組み TP-SD(劉 2023a より)る。授業は聴取課題(②),その週の音声項目の学習と練習(③),おさらいと振り返りシートの記入(④)という順で行う。聴取課題に関しては,先週の事後課題と今週の事前課題の二つがある。語や文の録音を聞きながら,聞こえたものをオンラインのアンケートに回答する。学習者が授業を受けた後には,各自復習し練習したうえで,指定の語や文を録音し,事後の発音課題(⑤)として提出する。事前と事後の発音課題をティーチングアシスタントと教師が評価し,学習者に個別と全体のフィードバック(⑥)を教師が行う。その後,学習者は次週の授業の準備として,事前の発音課題を提出する(①に戻る)。図 1 各週の流れ授業で日本語の音声について学習し練習する際には,学習者の母語を活用しながら,必要に応じて視覚の補助(例:┐のような折れ線型,↓のような矢印型,①のような丸付き数字型のアクセント記号)や身体の補助(例:手や頭などの体の動き)も適宜取り入れる。本章では,授業における母語の具体的な活用方法について述べる。これらの方法は,劉(2023a)で提案される「言語間類似点・相違点に基づく理論的・実践的母語の活用方法の枠組み(TP-SD)」(図 2)に基づいて考案したものである。なお,方言と特筆しない限り,以降で言う「中国語」は公用語の「普通話(Mandarin)」を指す。3-1.1 ~ 3 週目:リズムの単元3-1-1.1 週目:リズムの基礎,促音リズムの基礎に関しては,日本語と中国語の外来語(例:「オリンピック」と「奥林匹克」)を発音しながら,両言語の相違について学習者に考えてもらう(【導入練習】)。この活動を通してリズムの違いに対する意識化を促す。このように,同じ外来語でも異なる音訳になることを例に,母音・子音の構成の側面からモーラと音節の違いについて説明し,日本語において「拍」の概念が重要だと強調する(【注意点の説明】)。促音に関しては,日本語と中国語を比較し,日本語では促音の有無(例:「さか」と

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