早稲田日本語教育実践研究 第12号
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28早稲田日本語教育実践研究 第12号/2024/19―30 2020 年初頭から世界的に流行した新型コロナウィルス(COVID-19)禍のもとで,本学は 2020 年春学期には学期の開始を一カ月遅らせたうえで,キャンパスを全面閉鎖してすべての授業をオンラインで実施した。同秋学期には限定的に対面での授業も再開したが,キャンパスの人影は疎らで,ICC でもほとんどのイベントがオンライン実施という状況が続いた。この間,厳しい出入国規制が行われ,人の往来が著しく制限された。翌 2021 年度中も,入国制限が厳しく日本に戻れない学生もいる中で,多くの授業がオンラインあるいはハイブリッドで実施された。ての試みであるオンライン化に際して,運用の検討やマニュアル整備などの対応に追われた。この学期はイベント数も参加者数も限られ,いくつかのオンラインイベントを実施する中で,相手の反応が感じにくいことやグループワークなどにおける会話を盛り上げることの難しさ,システムトラブル(参加者側,管理側)に対応する難しさなどの課題に直面した。一方でオンラインには,物理的距離に関係なく参加者が参加でき,多様なツールを使いイベントを盛り上げられる利点もあることに気づき,対面にないメリットを最大限活かしながら,どうすれば異文化交流・理解を上記の課題を解決しながら促進できるか,スタッフも在宅勤務の中で検討を重ねた。 その結果,2020 年秋学期は,システムに関する理解,マニュアル化も順次進み,様々なアプリケーションの特徴や利便性なども試しながら,各スタッフも対面とオンラインによる交流における非言語コミュニケーションのあり方の違いを認識した対応(あいづちや視線に注意するなど)で参加者をうまくサポートできるようになった。こうしてオンラインイベントにおける運用方法,交流を盛り上げる方法を見出し,質を高めたオンラインイベントを展開できるようになった。日々改善を積み重ねた結果,2020 年度,2021 年度共に,オンラインを中心に 100 を超えるイベントを実施し,約 6,500 名(延べ人数)の参加者を集めた。こうして,日本に入国できずにいる留学生,国内で対面の授業が限られる中で孤独を感じている学生,留学を予定していたが実現できない国際志向の高い日本人学生をつなぐ役割を本センターが担えていたと考える。 本学の授業がほぼ対面に復したのは 2022 年春学期,そして入国規制が緩和され留学生がほぼ制約なく入国できるようになったのは同秋学期であった。ただこの時点でも大人数を集めてのイベント,特に宿泊や飲食を伴うイベントは原則として認めていなかったため,人との交流を核とする ICC の活動は試行錯誤を迫られた。この間在籍した学生たちは場合によって大学生活後半の 3,4 年生を,あるいは大学生活前半の 1,2 年生を,キャンパスにあまり来ることなく,人と多く交わることがないまま過ごすことになったのである。 その中で ICC は,繋がりを求めている学生のニーズを踏まえ,オンラインイベントを積極的に開催し,経験を蓄積するとともに,感染対策を行いながらの対面イベントも徐々に増やしていった。どうすれば多くの学生に異文化交流,理解に繋がる機会を提供できるか,難しい環境下でどのようにイベントの質を上げ,参加者にとって充実した意義のある時間を作り出すか。今までに培われた知見の上に,スタッフが創意工夫を重ねた。そして2022 年度は 160 を超えるイベントで約 9,400 人(延べ人数)の参加者を集めるに至った。 ICC は,2020 年度は春学期に予定していた企画の多くを中止・延期したうえで,初め

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