早稲田日本語教育実践研究 第11号
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久保田 美子実践紹介1.はじめに2.テーマ科目「聞き上手になろう 4」授業の概要83早稲田日本語教育実践研究 第 11 号   科目名:聞き上手になろう 4  レベル:初級 1・2 /中級 3・ 4 ・5 /上級 6・7・8  履修者数:20 名日常生活の聴解には,対面聴解と非対面聴解の 2 種類がある。対面聴解は話し手と向かい合って直接話を聞く場合であり,非対面聴解はラジオ,テレビ,CD など一方的に流れてくる音声を聞く場合である。国際交流基金(2008)では,「日常生活の聴解では対面聴解がとても多い」こと,「非対面聴解だけでなく,対面聴解も大事な技能として教室の中に取り入れていくこと」を主張している。中級以上のレベルでは,自立的に聞く能力がより必要になる。「自立的」という意味は,一方的に流れてくる音声をひたすら自分の力だけで聞くことができるという意味ではない。対面聴解においては,時には話し手に対して理解の度合いを示したり,内容を確認するために必要な部分を再度話すことを要求したり,自分の理解が正しいかどうか確認したりしながら聞くといった行為を自分の力でできることを意味する。そのような能力は「話す」ための能力と思われがちだが,実は対面聴解において,相手の話を上手に聞くために重要な能力である。本稿では,テーマ科目「聞き上手になろう 4」の授業実践を紹介し,従来から取り上げられることの多い非対面聴解の場合に必要なストラテジー能力だけでなく,対面聴解におけるストラテジー能力の養成にも重点を置いた授業の試みについて紹介する。2-1.参考にした教科書と授業で取り上げた聴解ストラテジーテーマ科目「聞き上手になろう 4」は 2020 年度春学期から始まった。2020・2021 年度は,『まるごと 日本のことばと文化 中級 1 B1,B2』(国際交流基金 2016,2017)の「聞いてわかる」のコーナーで取り上げられている「聞くためのストラテジー」を参考にシラバスを組み立てた。2022 年度春学期からは,対面聴解におけるストラテジー能力の養成に重点を置いている『生きた会話で学ぶ 中級から上級への日本語なりきりリスニング』(鎌田監修 2016)を教科書として指定し,その内容を取り入れた。なお非対面聴解に関しては『上級の力をつける 下巻 聴解ストラテジー』(川口他 2003)の内容も一部参考にした。表 1 に授業で取り上げた聴解ストラテジーを示す。前述の通り 2022 年度春学期から参考教科書を一部変更したが,全学期を通して取り上げたストラテジーに大きな変化はない。対面聴解におけるストラテジーを学ぶ

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