早稲田日本語教育実践研究 第11号
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森元 桂子―能動的聴解学習習慣の土台作り―1.はじめに2.コンテンツの選択と教材化79早稲田日本語教育実践研究 第 11 号   科目名:CM とニュースをたのしく聞こう 1-2  レベル:初級 1・2 /中級 3・4・5 /上級 6・7・8  履修者数:33 名「ことばをとにかく聞き,発音を耳で聞きコピーして口に出す」,このような「耳コピ」は非常にシンプルな行為でありながら,ことばの本質的で重要な学びの方法であると考えられる。現在,大人気の YouTube 出身のシンガーソングライターは,歌やピアノ演奏のみならず,流暢な英語でも注目を集めているが,その上達・勉強法の一つは「耳コピ」にあるという。好きな洋楽を繰り返し聴き,歌い,ネイティブ並みの発音を身に付けた学生や,アニメを通して日本語を学んだという学生に出会うことも少なくない。その共通点は「聞きたいもの」を「楽しく」聞いていることにある。本科目ではこの点に着目し,「聞くこと」のハードルを下げることを重視している。そして,日本語が「ほとんど何も聞き取れない」という挫折感や「全部聞き取らなければならない」というプレッシャーから初級学習者を解放すること,及び学習者がより意欲的に楽しく「聞くこと」に取り組み,部分的にでも「聞けた!」という喜びや充実感,「聞ける」自信を体得することを目指している。最終的には日本語の CM やニュースに自ら触れ「耳コピ」することを習慣化し,能動的かつ自律的に日本語の聴解力を伸ばすことができる学生を育てたいと考えている。2020 年度春学期,本科目の開講にあたり学習コンテンツとしてニュースと CM を取り上げた。ニュースは「NHK News Web Easy」を半分から 3 分の 1 程度の長さに編集し,語彙に英訳をつける等して教材化,ニュースの音声と動画の再生速度を大幅に下げて提示した。筆者がこれを教材としたのは,初級学習者ほど授業で日本語のニュースに触れる機会がなく,日本語で「聞きたい」意欲が高いことを他の授業実践を通じて痛感してきたためである。ただし,ニュースは学習者のレベルに合わせ,よりわかりやすく簡略化する必要があった。また,CM は 15 〜 30 秒の商品広告を活動内容と目的に合わせ分類し教材化,必要に応じて日本語スクリプトや英訳資料をつけ,再生速度を下げて提示した。CM には短くインパクトのある表現が駆使され,たとえことばが聞き取れなくても状況が映像で補完されるという特徴がある。さらに,簡単で親しみやすいフレーズを聞いて覚え,気軽にいつでも口ずさめることから教材に適していると判断し,採用した。実践紹介楽しく聞くための「耳コピ」力を鍛える

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