準については,先行して開発していた「文法・語彙」の結果のみから判断することも検討された。しかし,「文法・語彙」は 6 レベル(上級前半)までの判定を主たる目的として開発された固定型テストであるため,それ以上のレベルを測定するには測定領域の面で不十分であるという懸念があった。加えて,「文法・語彙」のテストを分析した結果,高得点者の日本語レベルの推定精度が相対的に低かったため(岩下他 2023),「読解」,「聴解」のテストを開発し,「文法・語彙」の結果と組み合わせることで,日本語レベルが一定水準以上であるか否かを認定することとした。日本語能力を測るテストは,JLPT,J-CAT など様々なテストが存在し,海外からでも受験可能な状況が整っている。しかし,受験にかかる金銭的コストや各教育機関の学習内容との整合性などを考えると,各教育機関で独自に開発されたテストの利点は大きいといえる。実際に IT 活用による効率化,利便性の向上などを背景に,各日本語教育機関の事情に合わせた独自のテスト開発が進んでおり,本稿で扱う読解または聴解を含むテスト開発に関しても複数の事例が報告されている(西郡・宮田 2003,坂野他 2010,小森 2011 2018,吉川 2015,小森他 2017,原他 2020)。これらの報告では,受験時間や項目数といったテスト設計,項目分析,レベル判定規準の設定,出題基準の作成などテスト開発に関わる詳細が記述されている。また,紙版のテストと CBT の結果の差異は,実用に問題が生じない程度であるとされている(吉川 2015,小森 2018)。CBT 化を行う上での懸念も 1つ軽減された。前述の報告で扱われているテストフォームについては,その多くがプレイスメントテストであるためか,単一のテストフォームによる固定式が主流であり,一部の学習機関では,テストシステムによって出題項目を調整する方式が採用されている。出題項目については,一部の教育機関において,独自の項目作成が行われているが,公開されている旧日本語能力試験(以下,旧試験)に使用された項目を援用した事例が多い。独自の出題基準を作成した原他(2020)においても,旧試験の出題基準(国際交流基金・日本国際教育支援協会 2002)と各科目の使用教科書からリストを作成していることから,現状においても旧試験の出題基準が様々な機関で日本語能力を測るテストの出題基準になっているといえよう。本稿で扱う「読解」,「聴解」のテスト開発は,前章の関連研究の内容と重なる点が見られる一方,テストシステムや同一学習者による複数回受験の可能性を考慮したテスト設計が必要となる点が異なる。また,可能な限り新たな言語使用状況を反映するため,最新の言語資源に基づいた出題基準を作成する必要性もあると考えた。そこで, 本テスト開発においては,1)テストシステムの制約を踏まえたテスト設計,2)出題基準となる語彙表の作成,3)難易度の等質な複数フォームの作成の 3 点を目的とし2.関連研究3.テスト開発の目的72早稲田日本語教育実践研究 第11号/2023/71―78
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