3-1.分析の枠組み本稿では,音声に対するアプローチの分類を分析の枠組みとして,対象となる文献を理論的に分類する。表 1 にあるように,四つのアプローチにはそれぞれ音声観や音声教育理念があり,それらは特徴語と結びついている。この特徴語とは,伊藤(2021)で分類されたアプローチやアプローチの説明に多く見られた語を指す。発音矯正というアプローチでは,「誤用(エラー)」「誤り」「間違い」「正しい」「正しさ」「矯正」「訂正」「発音矯正」といった語,音声指導というアプローチでは,「不自然」「訛り(なまり)」「自然」「コミュニケーション」「指導」といった語,音声学習支援というアプローチでは,「自己実現」「自律」「主体」「支援」「オンライン」「インターネット」「e ラーニング」といった語,やりとりの場づくりというアプローチでは,「自分らしさ」「自分らしい」「多様」「対話」といった語が特徴語となる。これらの特徴語をもとに,文献を四つのアプローチに分類する。たとえば,文献中に「誤用」という語が出現していれば発音矯正というアプローチに分類する。その際,文献の結論や主張が発音矯正の音声観・音声教育理念にもとづいているかどうかで,再度分類の判断をする。これは,「誤用」という語は批判対象として用い,別のアプローチにもとづいている文献がある可能性を考慮しているためである。また,いくつかのアプローチに属す特徴語が併用されている場合も,文献の結論や主張をふまえて再度分類の判断をする。いくつかのアプローチに属す特徴語が併用されており,音声教育理念が読み取れない文献は,分類不可能とみなした。3-2.分析対象と手順本稿で分析対象とした文献は,以下の学会誌に掲載された研究論文,実践報告および研究ノートである。これらの学会誌を分析対象とした理由は,定期的に刊行されており,日本語教育において多角的な観点から書かれた文献が多く掲載され,音声をテーマとする論考を選出するに適していると判断されるからである。1.学会誌『日本語教育』(日本語教育学会)1 〜 179 号2.学会誌『早稲田日本語教育学』(早稲田大学大学院日本語教育研究科紀要)1 〜 30 号3.学会誌『音声研究』(日本音声学会)1 〜 22 巻の各々 1 〜 3 号,23 巻〜 25 巻1 〜 3 の学会誌掲載論文のうち,国立国語研究所(1964)「分類語彙表」を参考に選定した,音声にまつわる語から一つ以上,教育にまつわる語から一つ以上の語が,論文タイトルまたは論文キーワードに含まれている文献を選定した(図 2 参照)。キーワードが記されていない文献については,タイトルおよび本文中の章題に含まれているかどうかを選定基準とした。ただし,以下のものは日本語教育と直接関係しない論考であると判断されるため,対象外とした。「音声」という語のうち「音声学」となっているもの,「音」という語のうち「音象徴語」や「擬音語」となっているもの,「学習」や「学習者」という語に対し,「日本語」以外の言語のみが付与されているもの,「乳児」や「幼児」といった語が付与されているもの,である。分析対象となった文献は,179 本であった。3.分析概要61論文伊藤茉莉奈/音声に対するアプローチの分類とその課題
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