音声教育理念学習者が正しい日本語の発音が産出できるようになるよう,学習者の発音を矯正・訂正すること学習者が日本語によるコミュニケーションを円滑におこなえるよう,学習者の音声を指導すること学習者が e ラーニングなどで自律的・主体的に音声学習を実現できるよう,支援すること学習者が自分らしい発音でコミュニティにかかわっていけるよう,対話の場をつくることめざす発音に関して,発音矯正と音声指導では「正しさ」と「自然さ」という特徴語の違いはあるものの,規範的な日本語の発音をめざすという点では共通している。音声学習支援は,学習者の視点を重視しつつも,日本語らしい発音をめざさない学習者の議論がなされておらず,めざすべき日本語の発音が多様であるという前提に立っているとはいえない。したがって学習者の視点を重視したうえで,規範的な日本語の発音をめざしていると捉えられる。そして教育の内容と進め方に関しては,発音矯正も音声指導も,教師が決めるという点で共通している。音声学習支援について,音声学習をするかしないか,どうやって学習するのか決めるのは学習者であるとしつつも,教育内容と進め方について教師が学習者と対話するという観点で議論された論考はない。それゆえ,現時点での音声学習支援の認識論的立場は,本質主義とも社会構成主義ともいえないとする。そして,社会構成主義の立場に立つやりとりの場づくりにおいては,めざすべき日本語の発音は多様であるという音声観であるからこそ,教育の内容と進め方を学習者と対話して決めることを重視する。以上の内容をふまえ,音声に対するアプローチを分類すると,表 1 のようになる。表 1 認識論的立場をふまえた音声に対するアプローチの分類認識論的立場本質主義発音矯正音声指導どちらともいえない音声学習支援社会構成主義 やりとりの場づくり 自分らしさ多様である60早稲田日本語教育実践研究 第11号/2023/55―70図 1 音声に対するアプローチの位置づけアプローチ音声観誤用・間違い正しさ不自然さ・訛り自然さ自己実現の手段
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