小論では,日本語教育における専門連語の指導の可能性を探るため,高校卒業程度の,経済・数学・物理・化学の専門連語を資料として,専門連語数,中心語(専門語)の段階,中心語別の分布,共起語の品詞,共起語の難易度,名詞の共起語における専門語の割合について調査し,4 分野の専門連語の言語的な特徴を比較した。その結果,4 分野の専門連語の,共通点と相違点が明らかになった。主な共通点は次のとおりである。①多くの専門連語を作る中心語は少数に限られ,2 種以下の専門連語しか作らない中心語が 4 割以上に達する。②中心語と共起する共起語の品詞は,動詞・名詞・形容詞で,動詞と名詞が大半を占め,名詞の難易度が最も高い。③一般語だけでなくその分野の専門語も共起語になり,「専門語+専門語」形式の専門連語も存在する。主な相違点は次のとおりである。①各分野の専門連語数,②中心語の多くを占める語が中学用語か高校用語か,③共起語に最も多い品詞が動詞か名詞か,④「専門語+専門語」形式の専門連語の割合。それらの結果から,経済と他の 3 分野には,専門連語数の違いという量的な面だけでなく,多くの点で質的な違いが認められた。数学・物理・化学は,専門連語数という量的な面ではその順に増えて難易度が上がる一方,質的な面からは物理・化学・数学の順に難易度が上がると思われる。日本語教育における留学生への専門連語の指導は,対象を多くの専門連語を作る中学用語を中心語とする専門連語に限れば,可能であろう。さらに,1 級語彙の高校用語の中にも多くの専門連語を作るものがあり,指導対象になる。表 14 は,中学用語および 1 級語彙の高校用語の中心語のうち専門連語数が上位の 10 語を示したものである。それらは,その分野を専門としない日本語教師にも学習の経験があり,教えやすい専門語である。表 14 の中心語には中学用語が多く,経済はすべて中学用語だが,数学・物理・化学には,1 級語彙の高校用語もまじる。1 級語彙の高校用語の中には,「グラフ,力,気体」など中学までに学習する用語が選定方法の関係で高校用語に分類されたものが含まれる。【経済】価格 34 企業 34 市場 28 経済 27 景気 22 所得 19 生産 17 株式 15 サービス 14 消費者 13【数学】関数 34 集合 26 グラフ 24 要素 17 解 15 確率 15 座標 15 放物線 12 区間 13 接線 10 【物理】波 56 力 45 エネルギー 40 振動数 24 電子 23 抵抗 22 熱 22 磁界 21 電圧 19 速度 18【化学】単体 44 水 44 原子 38 分子 31 化合物 30 気体 26 酸 22 水素 22 銅 22 元素 20 注)下線は中学用語,それ以外は 1 級語彙の高校用語を表す。数字は専門連語数。同じ中心語の専門連語でも,共起語の品詞や難易度,専門連語の意味によって日本語教師にとっての教えやすさは異なる。経済は「価格が上昇する」「価格を決める」「商品の価5.考察51論文小宮千鶴子/留学生のための専門連語の4分野比較表 14 指導の可能性がある専門連語の中心語
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