早稲田日本語教育実践研究 第11号
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計論文小宮千鶴子/留学生のための専門連語の4分野比較形容詞3.8%( 20)6.0%( 75)5.4%(116)2.4%( 16)100.0%( 527)100.0%(1256)100.0%(2156)100.0%( 666)共起語が名詞の専門連語とは,「巨額の不良債権」「エネルギーの変化」「不等式の解」などの連語である。「巨額」や「変化」は一般語で,「変化」は動作名詞である。「不等式の解」は,数学の専門語 2 語からなる専門連語である。一般語の「巨額」は「多額」と類義関係にあるので,「巨額の不良債権」と「多額の不良債権」は,類義の専門連語といえる。それに対し,2 語の専門語からなる「不等式の解」などの専門連語は,類義語を嫌うという専門語の性格(国立国語研究所 1981:10)から,類義の専門連語は想定しにくい。共起語が名詞の専門連語における中心語は,大半が名詞だが,数学の専門連語には,「文字について微分する」など中心語が動詞 6)で共起語が名詞という連語が少数ながらある。共起語が形容詞の専門連語とは,「所得が多い」「深刻な不況」「 酸性が弱い」「純粋な水」などの連語である。共起語の形容詞には,イ形容詞とナ形容詞がある。表 8 によれば,4 分野とも動詞の共起語と名詞の共起語とを合わせると,全体の 9 割を超え,形容詞の共起語は 1 割に満たなかった。表 8 の( )内は専門連語数である。分 野経 済物 理化 学数 学経済は動詞の共起語の割合が最も高く,他の 3 分野は名詞の共起語の割合が最も高かった。経済の専門連語には,中学教科書からの連語が含まれるので,他の 3 分野と同様に,高校教科書からの専門連語に限って共起語の品詞を再調査した。その結果,高校教科書からの専門連語 486 種のうち 250 種(51.4%)の共起語が動詞で,表 8 の 51.6% とほぼ同じだったので,経済の共起語における動詞の割合の高さは,中学教科書からの専門連語の影響とはいえない。物理・化学・数学では,名詞の共起語と動詞の共起語との割合の差が分野によって異なり,物理は 6.4 ポイント,化学は 25.8 ポイント,数学は 48.6 ポイントもあった。4-5.共起語の難易度資料の 4 分野の専門連語において中心語の専門語と共起する共起語の難易度を知るために,旧日本語能力試験の 1 級語彙を含む割合を調査した。「自由化」などの派生語は,原則として造語成分がすべて 1 級語彙表にあれば,1 級語彙とした。「大きさ」など形容詞の語幹に「さ」がついた語は,形容詞が 1 級語彙表にあれば,1 級語彙とした。「動き」などの転成名詞は,「動く」などもとの動詞が 1 級語彙表にあれば,1 級語彙とした 7)。表 9 は,1 級語彙の共起語をとる専門連語の割合を示したもので,( )内の分数は,全ての専門連語数が分母で,そのうち 1 級語彙を共起語にとる専門連語数が分子である。1 級語彙の共起語をとる専門連語の割合は,経済が最高で約 82%,物理が約 68%,化学が47表 8 共起語の品詞からみた専門連語動 詞名 詞51.6%(272)44.6%( 235)43.8%(550)50.2%( 631)34.4%(741)60.2%(1299)24.5%(163)73.1%( 487)

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