専門連語 連語として専門語とは別個に専門概念を表す 「価格を決める」「高い価格」「価格の安定」専門語の連語 非専門連語 連語としては専門概念を表さない 「価格を考える」「嬉しい価格」「価格の秘密」専門語の連語の研究は,海外では 1990 年代から専門用語学や専門辞書学の分野で行われている(影浦 2010)。Bergenholtz (1995:118)は,専門語辞典にのせるべき連語として,るものが多いので辞書学的にはつまらない例とし,後者は本で調べるという人々が本に対して行う独特な意味を表すので,辞書にのせるべき連語だと主張した。ただし,両者の実際の区別について,すべての辞書編集者が一致するのは困難だと述べている。L’Homme (2009:239)は,専門用語学では辞書にのせるべき連語について一般的な合意はまだないが,キーワードとなる専門語は,通常は名詞か名詞句で,典型的な共起語は動詞,名詞,形容詞だと述べている。事例には,連語を統語的かつ意味的な特性から予測不能な語結合と定義し,専門語を中心語にして,専門用語学者がコーパスからコンコ―ダンサーを用いて典型的な語結合を収集する例が示されている。日本語だと,「安定な原子」などが上記の定義に該当するのではないか。「専門語を中心語とし,名詞・動詞・形容詞・副詞と共起する,予測不能で半合成的な,単語間に統計的な選好傾向がある複数語表現」と定義した。以上から,専門語辞典にのせるべき連語に関する一般的な合意はまだ存在せず,留学生に指導すべき連語は専門連語だという主張(小宮 2002)は,専門語の連語を専門概念の表示と捉えた点に新しさがある一つの提案といえる 2)。3-1.調査の資料高校卒業程度の 4 分野の専門連語の調査資料には,次を使用した。 経済の専門連語:小宮(2010),数学の専門連語:小宮(2016) 物理の専門連語:小宮(2007b),化学の専門連語:小宮(2006b)上記の 4 分野の資料は,いずれも教科書索引から選定した専門語を中心語とし,教科書本文からプログラムで抽出した連語を手作業で整えて専門連語候補とし,専門概念を表すか否かの判定は,各分野の 3 名の専門家が行い,3 名が一致して専門連語と判定したものが専門連語とされている。小論では,資料を中心語(キーワード)と共起語からなる 2 語の専門連語に限る。専門連語の中心語は専門語で,大半が名詞である。専門連語における単語間の文法的な関係は,「価格が上がる」「景気が悪い」などの主述関係,および,「価格を決定する」「高い所得」「企業の業績」などの従属的関係である。専門連語の選定資料は教科書で,経済のみ“buy a book”と“look up in a book”などの例を比較し,前者は本以外にも買うことができPatiño(2013:125-126)は,専門語の連語に関する先行研究を整理し,専門語の連語を3.調査の資料と方法41論文小宮千鶴子/留学生のための専門連語の4分野比較図 1 専門連語の規定
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