論文小宮 千鶴子―経済・数学・物理・化学を対象に―要旨1.はじめに39早稲田日本語教育実践研究 第 11 号 留学生が専門語を適切に使用するには,専門語だけでなく専門連語の習得が必要である。小論では,各分野の専門連語の言語的特徴を指導に生かすため,高校卒業程度の経済,数学,物理,化学の専門連語を資料に,専門連語数,中心語(専門語)の段階,中心語別の分布,共起語の品詞,共起語の難易度,名詞の共起語に占める専門語の割合を比較した。 その結果,4 分野の専門連語における共通点と相違点が明らかになった。共通点は,多くの専門連語を作るのは少数の中心語で,共起する共起語の品詞は,動詞・名詞・形容詞で,名詞の難易度が最も高いことなどである。相違点は,専門連語数,中心語の主な段階,共起語に最も多い品詞,名詞の共起語に占める専門語の割合などである。それらの結果から,4 分野の専門連語は,経済と他の 3 分野に大別された。数学,物理,化学については,量的にはその順に難易度が上がるが,質的には物理,化学,数学の順に難しくなる。 キーワード: 専門語(専門用語),連語,専門連語,高校教科書,中学教科書日本の大学学部に進学して日本語で学習する留学生は,専攻分野の教育の基盤となる高校卒業程度の専門語を入学前に習得していることが期待されている(札野・辻村 2006)が,実現は難しい。専門語とは,「日常一般に使われる語(一般語,日常語)に対して,専門分野で専門の概念を表すために用いられる語。専門用語ともいう。分業化・専門化が高度に進んだ現代社会では,職業や趣味も含めた多様な専門分野が成立しており,専門語の範囲も,職業語や趣味娯楽用語などと重なりながら,多岐にわたっている。」(「専門語」日本語学会(編)『日本語学大辞典』p. 579,石井正彦氏執筆)と規定される。小論では,留学生の学習や研究に必要な学問の専門語である学術用語を対象とする。母国で高校教育を受けた留学生は,学習した専門概念を知っていても,それを表す日本語を学ぶ機会がほとんどないまま大学に進学し,入学後に専門語学習の負担が急増する。その改善の第一歩として,高校卒業程度の専門語の学習語彙が選定されている(岡 1992;水本・池田 2003;小宮 2005a,2005b,2006,2007;濱田 2008)が,それらの学習のみでは,適切に使用するのは難しい。国語辞典や日本語学習辞典には語義の説明のほかに使い方を示す用例があるが,専門語辞典は概念の説明のみで用例がなく(Peason, 1998;影浦2010),留学生など日本語学習者が専門語の適切な使い方を知る助けにはならない。日本人大学生は,高校までの授業において「価格が上がる」(下線部は専門語を表す,以下同様)などの“専門連語”(後述)にくりかえし接するうちに無意識的に習得してお留学生のための専門連語の 4 分野比較
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