注早稲田日本語教育実践研究 第11号/2023/23―38検証した。更に,得点区分の妥当性検証として,等化後の母数を用いて各得点区分と各レベルに相当する受験者の分布を確認した。2)については,熟達度テストとしての構成概念を設定し,基準関連妥当性および,構成概念妥当性の検証結果を示した。加えて,出題項目の内容的な妥当性検証の一端として,日本語教育の文法リスト(堀他 2016)と出題項目の対照を行い,幅広いレベルの文法項目が出題されていることを確認した。最後に,3)については,IRT に基づく等化分析の結果を用いて,項目プールを作成し,出題領域,項目レベル,難易度の 3 点のバランスを考慮した等質なテストフォームの編集を行った。本テスト開発により,CJL で学ぶ学習者は,時差・地域にとらわれずテストを受験できる環境が整ったといえる。新入生は,熟達度テストとして,CJL における自らの日本語レベルを確認し,適切な科目選択に活用することができる一方,在校生は,到達度テストとして,CJL で学習した内容がどの程度身についたかを確認し,今後の学習に役立てることが期待できる。今後の課題としては,テスト開発の継続性および熟達度テストとしての妥当性検証の必要性が挙げられる。本テストの特徴の 1 つは,学習内容を反映している点である。今後,生じるカリキュラムの変更に際して,テスト項目の修正も求められる。また多くの学習者が繰り返し受験できるテストである以上,項目露出の機会は多く,いずれフォームの更新も必要になるだろう。ただし,仮にテスト更新の作業が生じたとしても,適切な等化計画や関連付けによって,作業負担は最小化できる。これは,IRT を用いたテスト開発が実現した成果といえよう。今後,各レベルの学習者の日本語能力が変化する可能性を考えると,テストの結果が実情に即しているかの検証も重要な課題と考える。本稿では,妥当性検証の結果も報告したが,特に熟達度テストとしての妥当性検証は,十分とは言えない。基準関連妥当性(5□2)は,非常に限られたサンプルサイズによる検証結果であり,構成概念妥当性についても,一次元性を確認したに過ぎない。構成概念とした「文法的知識(語彙の知識,統語の知識)」および「テキストについての知識(結束性の知識)」を推定するには,より多様な出題形式によって,幅広い観点から出題した上で,丁寧に検証を行う必要がある。本テスト開発の目標は,熟達度テストとしても到達度テストとしても利用可能とすることであるが,従来,この 2 つのテストは異なる目的で実施されるものであり,その検証も非常に難しく,大きな課題が残されているといえる。本テスト開発においては,有用性を考慮し,文法・語彙領域のテスト開発が優先された。文法・語彙は,CJL における多様な日本語科目を履修するにあたっての基礎となる知識と位置付けられるが,一方で,文法・語彙のみで,熟達度および到達度が示されるというわけではない。今回のテスト開発では多くの学習者の産出能力を短時間で高精度に推定し,CJL の日本語レベルに対応させるテストの開発は見送られたが,昨今の日本語能力評価の観点からは,会話や作文テストの使用も期待されるため,他分野も含めたテスト開発の動向を見据えつつ,テスト開発およびその検証を継続する必要がある。 1) 1 構想・構築力,2 問題発見・解決力,3 コミュニケーション能力,4 健全な批判精神,5自律と寛容の精神,6 国際性の 6 つの資質や能力である。36
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