可能な体制の構築という 4 点が挙げられているが,本稿で扱う文法・語彙についてもこの4 つの課題は共有されているといえる。本テスト開発は,前章の先行研究との共通点が見られる一方,熟達度テストと到達度テストの 2 つの機能を両立させる必要がある点,および同一学習者による繰り返し受験を許容するシステムが必要となる点で異なっている。本テストは,学習者自身による科目選択を支援する学習環境整備の一環として開発されるため,各学期 1 回,開講時に受験できる。新入生は,自身の日本語能力が CJL において,どのレベルに相当するかを判断する熟達度テストとして受験するのに対して,在校生は,CJL で学んだ学習の成果を把握するための到達度テストとして受験する。また,継続生による,繰り返し受験を前提としながらテストの信頼性を確保するため,難易度の等しい複数のテストフォームの作成が求められた。そこで,本テスト開発においては,1)到達度テストとしての使用,2)熟達度テストとしての使用,3)難易度の等質な複数のフォーム作成という 3 点を目的とした。具体的には,1)を達成するため,CJL の各レベルの学習項目を文法および語彙の観点から選別し,項目を作成する。次いで,2)を達成するため,試行調査を行い,CJL における各レベルの学習者の得点分布の確認,項目分析および学習者のレベル別正答率を検証する。3)を達成するため,複数フォームの作成に十分な項目数の作成,学習者の回答データに基づく項目情報の分析を行う。そのため,2 年半の開発期間において 1 回の予備調査と全 4 回の試行調査を計画した。各調査は 1 学期に 1 回原則学期開始時に実施し,回答データを実施回ごとに分析した。加えて,全 4 回の回答データを統合し,Item Response テスト編集を行い,難易度の等質な複数のテストフォームを作成した。先行研究においても項目分析は行われているが,等化分析による複数フォームの作成,得点区分の設定に関する詳細は報告されていない。テスト開発における検証過程の透明性は重要な要素であり,寅丸他(2021)で挙げた 3)対外的に説明可能なテストの質の担保という課題にも通じる点に加え,テスト開発の事例として,知見の蓄積にも寄与したい。4-1.テスト開発の手順とテストの構成概念テスト開発は,野口・大隅(2014)に大規模テスト開発の流れとして示された 1)テストの設計,2)問題項目の作成,3)予備テスト,4)項目分析,5)項目プールとテストの編集,6)解釈基準の作成という手順を元に,CJL の実情を考慮した表 1 の手順で行った。3.テスト開発の目的Theory(以下,IRT)を用いた等化分析を行い,その結果に基づいた項目プールの作成と4.テストの概要25論文岩下智彦・寅丸真澄・伊藤奈津美・沖本与子・井下田貴子・三谷彩華/CJLで学ぶ日本語学習者を対象としたComputer Based Test開発
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