早稲田日本語教育実践研究 第11号
15/126

社会環境の変化に関わらず,一貫して数多く存在するという点である。ここには,本質的な問題として,日本人学生と同様の就職活動プロセスを踏む必要がある点や,多くの業界や職種で日本語での高度なコミュニケーション能力が求められる点など,留学生にとっての大きなハードルが数多く存在しつつも,それらの問題に対する効果的なアプローチが施されていないままになっており,その状況がコロナ禍により明確になった結果とも言える。これらを踏まえ,今回は日本の就職活動の現状と,現状を踏まえたキャリアセンターの支援を紹介しつつ,今後に向けた課題や展望について考えたい。日本での就職活動は,母国での家族や友人が経験しているものと大きく異なり,大きく以下 3 つの特徴があるといえる。コロナ禍によりこの傾向は変化し,現在はより複雑な状況にあるが,日本における基本的な概念として意識しておく必要がある。2-1.新規卒業者(以下,新卒)一括採用日本企業は,大学 / 大学院を卒業 / 修了し,過去に職歴が無い人材を対象に新卒採用を行っている。職歴がある場合は中途採用として採用時期や採用方法も明確に異なる場合が多い。また,上記に伴いほとんどの企業が毎年 4 月に新卒を一括で入社させるため,それに向けた書類選考や面接などのステップも大規模なイベントとして行われる。2-2.多くの採用ステップ上記に伴い,特定の時期に多くの学生から採用者を選抜するため,多くの採用ステップを経て,応募から入社までは 1 か月〜 2 か月を要する場合が多い。一般的には以下のようなステップが基本となっている。プレエントリー > エントリーシート(以下,ES)提出・WEB テスト受験 > 筆記試験 > グループディスカッション > 一次面接(個人もしくは集団面接) >二次面接(個人もしくは集団面接) > 最終面接(役員面接) > 内々定・内定2-3.長期雇用(ポテンシャル重視)新卒で入社した社員は,その会社で様々な仕事やポストを経験しキャリアアップしていくことが期待される。そのため,入社時点では具体的な職種や配属先は明示されず,現在の能力よりも,将来を見据えた将来性を重視する傾向がある。海外では,雇用する際に勤務地や業務内容,勤務時間など諸条件を明確に決めておく「ジョブ型採用」が一般的であるが,日本では,先に人材を確保し,適性を見極めながら業務を割り当てる「メンバーシップ型採用」が中心となる。また,海外(ジョブ型採用)は通年で採用活動を行っているが,日本(メンバーシップ型採用)では,政府の就職活動ガイドライン 3)に基づき,概ね学部 3 年生 / 修士 1 年生から就職活動を始めるのが一般的2.日本の就職活動11寄稿論文塩月恭・沈向琮/留学生の就職活動について

元のページ  ../index.html#15

このブックを見る