早稲田日本語教育実践研究 第11号
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7センター最前線池上摩希子/2023年度に向けた日本語教育研究センターの課題と展望世界を席巻した COVID-19 の影響も徐々に落ち着き始めたことは,CJL に入学する学習者数が回復している状況からも窺い知ることができます。2023 年度にはコロナ以前の状況にほぼ戻ることが見込まれていますし,これまで来日できなかった留学生の動きを推測すれば,増加の傾向を考えたほうがよいかもしれません。CJL は,これまで以上に「多様性」「主体性」「開放性」を重視した教育活動を展開していかなければならないということです。さらに,課題とされる「開放性」をより深く検討するために,中継点とその先との「接続」を創出しなければなりません。直近,前号では「センター最前線」として,久保田・濱川(2022)が CJL スタンダーズを紹介しています。これは,CJL のプログラムにおいてレベルごとに目標を構造化,可視化することを目的に,CJL の常勤教員全員が関わることで開発できたものです。CJL スタンダーズは教員が教育実践を策定するために参照することもできますが,なにより,JLP の履修を希望する学生に対して,CJL が定めているレベルやコース内容を把握することに活用してもらいたいと考えています 2)。「多様な学習者との「接続」,様々な分野の学問との「接続」,そして様々な社会との「接続」,それらの「接続」を考え,「ことばの学びの中継点」となる使命を CJL は帯びている」(久保田・濱川 2021,p. 5), このような背景と目的のもと開発された「CJL スタンダーズ」は先述のす。そして,CJL スタンダーズにある学生向けの到達目標記述を通じて,次に何ができるとよいか,何を学ぶとよいか,その先にどのような目標を定めることができるかを考え,検討し,自分自身の学習を管理していけるとよいと考えています。学生は「入り口」で CJL レベルチェックテストによって推奨レベルを知った後,シラバスを参照して科目登録を行います。学習目的,自分の好みや学習スタイル,使える時間等々によってどの授業が適当か,CJL が準備した多様な「中身」を吟味しながら主体的に自らの学習をつくっていきます。ここに CJL スタンダーズが機能し,前述の様々な「接続」を促していければ,「次の場所」とそこに到達するための方途がより具体的に明確に見えてくるのではないでしょうか。多様な学習者と日本語の学習とを接続することから始め,学習者が日本語で学びたい様々な分野との接続をはかり,そして日本語が使用されている様々な社会との接続をはかりたい,CJL の日本語教育はこうした「接続」を考え,日本語の教室が「ことばの学びの中継点」となることを目指してきました。今後の展望としては,中継点の先にある学習者一人ひとりの「次の場所」に向かって開かれたプラットフォームとなることを目指したいと考えています。2022 年 9 月,ウクライナ情勢を受け,本学は当地から学業の継続を希望する学生の受け入れを始めました。この学生たちは CJL の科目等履修生として日本語を学びながら,ゆくゆくは大学の正規生として学び,社会に参加していくという「次の場所」を目指しています。この例に限定することなく,全ての学生の「学びたい」「進みたい」を止めないために,日本語を学ぶプラットフォームをより整備していきたいと考えます。「ことばの学びの中継点」を経てプラットフォームから世界へと,ひとりでも多くの学生が向かっていってほしいと願っています。4.今後の展望を見据えた「接続」を- 「世界へ向かうプラットフォーム」の創出CJL レベルチェックテストと同様に,学習者が自分自身の状況を知るところから始まりま

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