6早稲田日本語教育実践研究 第11号/2023/5―82016)。「多様性」は前述のように,多様な学習者に多様な科目を提供していること,「主体性」は学習者の主体性を重視した履修と学修を推奨していることを表しています。そして,「開放性」の意味するところは,他箇所や大学外部との協力や連携に留まりません。CJL を「留学生に日本語を教えてから次の場所へ送り出す機関」としてではなく,連続性を意識した「ことばの学びの中継点」とすることが「開放性」の確保につながります(舘岡 2018)。現在,カリキュラムやプログラムを量と質の両側面から充実させていることが「多様性」を支えています。初級学習者に対するプログラムも,2021 年度からハイブリッド科目を提供するなど,徐々に多様化への対応を進めることができています(木下 2020)。「主体性」に関しては,「CJL レベルチェックテスト」1)を開発し,学習者に履修の推奨レベルを示すことで主体的な科目選択を促しています。また,「わせだ日本語サポート」で学習者の自律的な学びを支援しています(寅丸・吉田 2021)。これらは CJL の特色を具体的に表している教育活動の一例といえるでしょう。一方で,「開放性」には,引き続きの検討が求められています。池上(2019)では,「開放性」を視野に入れながら以下の 2 点を充実させることを,当該時点での CJL の課題として主張しました。①増加する初級学習者への対応をより充実させること②キャリアを形成する日本語学習を支援すること①は主に英語プログラムで来日する学生の初級レベルの日本語学習について述べ,②では学んだ日本語で就職や進学を目指す上級レベルの学習者の日本語学習に焦点を当てています。日本語レベルが初級でも上級でも,学習者が日本語を学んで自分自身が実現したいことに挑んでいく存在である限り,日本語の教室は中継点として機能します。単に次の場所(学部や大学院,社会)へと学生を送り出すために日本語を教える場所ではなく,学びの連続性を意識した「ことばの学びの中継点」となる必要があります。そして,どこに向かって何のために学習者は今ここで学習しているのかを考え,「開放性」を確保しつつ明確な次への「接続」を創出する必要があるということになります。「開放性」は CJL が全学の教育機関としてあるためにも求められている課題ですが,ここで,「全学の教育機関」というとき,「全学から日本語学習者を受け入れている」という現状を言うだけでは十分ではありません(池上 2015)。日本語の教室を留学生のための中継点として機能させるだけではなく,日本人学生と留学生との共修を促進することによって,本学が標榜するグローバルな大学となること,つまり「全学の学生のための日本語教育機関」を目指すことが重要です。この点を考慮に入れると,さらに,CJL における「開放性」をどのように確保するのかは重要な論点となってきます。ボランティアや TA(ティーチング・アシスタント)の導入にとどまらない学び合いの教室を,プログラムも視野に入れて創っていくことが CJL の今後の大きな課題といえるでしょう。CJL の教育活動の特色として,「多様性」「主体性」「開放性」があげられます(舘岡3.検討課題としての「開放性」 - 「ことばの学びの中継点」であるために
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