3.留学生に求められる資質・能力4.懇談を終えてイン授業の実施や授業外活動の自粛等から,新たな人間関係を築きにくく,他の学生から情報を得たり刺激を受けたりしにくい状況になっていることも,事態をより深刻にしていると言える。COVID-19 の収束後は,このような状況が少しは改善すると考えられるが,主体的に情報を収集していく姿勢が引き続き求められる。留学生の視線が国外に向かうなか,企業はどのような資質や能力を留学生に求めているのだろうか。留学生といっても,学部生のほとんどは日本人学生と同様の選抜方法で同一の採用枠を競うことになる。従って,期待される資質や能力も日本人学生とほぼ同様であると言える。主体的,協調的な人間性と,社会人として必要な基礎的・汎用的能力 2)である。また,価値観の異なる他者とも建設的なコミュニケーションを築けるコミュニケーション能力が求められるという点も,多文化化が進む現代に必須な能力であると考えられる。さらに,留学生の場合は,仕事で使える日本語能力が求められる。JLPT の N1 合格の有無のみならず,実際に使えることが重要であると言える。無論,言語能力のみに頼ることはできない。留学生は日本のみならず複数の国で教育を受けていることが多く,3 か国以上の言語を使用できる者も多い。その結果,国際性をアピールする例が散見されるが,その前提として,豊かな人間性と社会人としての基礎的・汎用的能力を蓄えておく必要がある。留学生の中には,日本語運用力が上級レベルでなくても複数の内定を取る者がいる。そのような留学生は,国際性や言語能力だけでなく,主体的,協調的な人間性と基礎的・汎用的能力,コミュニケーション能力を評価されていると考えられる。一方,好ましい資質や能力を持っていても,その存在に気づかない,あるいはエントリーシートや面接の場で十分に自己表現できない留学生もいる。そのような留学生に対しては,自身の経験や考えを日本語で言語化するスキルを高めることが重要である。そのようなスキルの育成は,日本語教育において特に支援可能な部分なのではないかと考える。今後の就職活動の動向としては,オンライン環境が整い,長期化,早期化,多様化が進むと予想される。政府が策定している新卒採用に関するガイドラインは形骸化しており,今後は企業の状況に応じたスケジュールで採用活動が進むことが予想される。早期から多様な形態での採用活動が実施され,結果的に,内定が取れない学生は就職活動が長期化すると考えられる。しかし,長期化することで新卒採用市場がより流動化し,内定の取れていない学生にチャンスが巡ってくるということもありうる。留学生は,どのような局面においても適切に対応できるように,十分に資質や能力を磨いておくことが重要である。筆者らは CJL において「ビジネス日本語」科目を担当しており,毎学期,国内企業や日系企業への就職を希望する多くの学習者と対峙している。しかし,学習者の背景や所属,専門分野は多様であり,履修者数も多いことから,個人の事情を踏まえて就職活動の77コラム伊藤宏美・津花知子・寅丸真澄/留学生のキャリア支援に関する懇談会を終えて
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