早稲田日本語教育実践研究 第10号
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1.はじめに2,留学生の就職活動・就職状況伊藤 宏美・津花 知子・寅丸 真澄コラム早稲田日本語教育実践研究 第 10 号 本稿では,昨年 12 月に留学生のキャリア支援に関する情報交換を目的として,早稲田大学キャリアセンターと日本語教育研究センター(以下,CJL)の関係者,および CJL の「ビジネス日本語」科目担当教員が出席して開催された懇談会 1)について報告する。労働市場における優秀な留学生の獲得と定着が喫緊の課題となる一方,日本国内での就職率は「日本再興戦略」(内閣府,2016)において目指された 5 割に未だ届いていない。本学においても,2020 年度の学部・研究科を合わせた外国人留学生の国内就職率は 28%に留まっており(早稲田大学キャリアセンター「進路データ」),国内就職希望者の内定率を高めることが重要課題となっている。無論,留学生のキャリアの問題は CJL の教員にとっても重要であると言える。アカデミックキャリアにせよビジネスキャリアにせよ,教員はみな日本語学習者(以下,学習者)のキャリアを日本語教育の面から支援していく役割を担っているからである。言語と生を営むことが不可分である以上,直接・間接に関わらず,学習者の人生に関わっていると考えられる。しかし,教員が学外の社会状況を視野に入れながら授業を設計していくことは容易ではない。特にビジネスキャリアの分野においては,2020 年からの COVID-19 の拡大以降,企業の DX(Digital Transformation)化や就業形態の変革,およびそれらに伴う就職活動の変化が急速に進展しており,その現状を正確に把握することは困難である。CJL 内で学習者のビジネスキャリアに直接関わっている科目は「ビジネス日本語」カテゴリーのテーマ科目であるが,その担当教員である筆者らさえ,急速に変化する社会の実情を把握しきれていないと言える。そのような状況のなか,筆者らは,留学生のキャリア支援のフロントラインに立つキャリアセンターの方々に留学生の進学や就職の現状をうかがえる機会を得た。次章では,教員間の情報共有を目的として,その懇談の場での話や質疑応答の内容を筆者らの視点で整理して報告する。なお,本報告は現状の一端であり,本学留学生の全容を共有するものではない。詳細はキャリアセンターの広報資料等を参照されたい。表 1 は,2018 年 度 か ら 2020 年 度 ま で の 外 国 人 留 学 生( 学 部・ 研 究 科 ) の 進 路 別割合を翌年度 8 月 1 日時点の報告ベースでまとめた表である。本表から,「日本で就職」(31 → 31 → 25%)と「進学」(22 → 23 → 20%)が減少しているのに対し,「未定」(5 → 6 → 9%)と「活動中」(22 → 26 → 27%)は増加していることがわかる。国内での75留学生のキャリア支援に関する懇談会を終えて

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