早稲田日本語教育実践研究 第10号
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3.コミュニケーションの場をつくる4.TA・ボランティアの気づき5.まとめ 毎回の動画を通して考える活動や発音練習もグループで行ったが,コースの最終課題もグループで動画作成を行った。その動画は自作のものや著作権に配慮した形で既存のアニメやドラマの動画を活用したものもある。各グループには TA やボランティア計 7 名を1 名ずつ配置し,受講生と同様に役割を担当してもらった。これにより,多くのグループは授業時間外に集まって話し合い,何日かにわたって数時間練習したところもあったという。この時間がコミュニケーションの場,自己開示の場となり,受講生からは,メンバーが異なる場所にいても,お互いに話し合って 1 つの作品を作りあげたことに達成感を感じた,つながった気がするというフィードバックが複数寄せられた。 高度授業 TA の趙は,授業活動の導入部を担当し,そこで用いる「発音を考える動画」の作成を行った。これまでに動画制作の経験はあったが,授業用の動画の担当は初めてだったので,学生への伝わりやすい形にすることが難しかった。例えば,スーパーとスパの違いやクッキーと空気の発音の違いが原因で誤解が生じたというストーリーの動画では,文字から誤解の原因がわかるため字幕が出せなかったが,その結果,なかなか話し合いが進まなかった。このことから足場がけにはいくつかの段階が必要だと気づき,工夫した。 ボランティアの陳は,非母語話者が日本語を教えることには限界があるという考えがあり,それは正誤や自然さを瞬時に判断できないことなどによるが,非母語話者ならではの知識や経験が役立つことに気づいた。また,日本語の授業は正しいことを教え込むことに重点を置きがちであり,陳自身もそうした思い込みがあったが,この 1 学期の授業参加を通して,この授業で受講者に求めているのは,正しさだけではなく,音声をテーマに各自の考えをお互いに出し合いながら,コミュニケーションすることであると学んだ。 本稿では,早稲田大学の TA とボランティア,そして履修者とともにつくった発音の授業について紹介した。このような取り組みは双方にとって学びがあることを実感している。毎学期授業への参加者は変わるが,引き続き早稲田大学という学習環境を生かした学びを考え,提供していきたい。参考文献木下直子・中川千恵子(2019)『ひとりでも学べる日本語の発音』ひつじ書房.(きのした なおこ,早稲田大学日本語教育研究センター)(ちょう せつきょう,早稲田大学大学院日本語教育研究科院生)(ちん ぎ,早稲田大学日本語教育研究センター)早稲田日本語教育実践研究 第10号/2022/65―66 66

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