3巻頭エッセイ弦間正彦/日本語の方言と地域創生 自然環境の継承や保全,町おこしのための活動が早川町で 1990 年代から始まっている。1994 年には「『山の暮らしを守る』を使命として,山の暮らしの価値を伝える/担い手を育てる/課題を解決する」ことを目的とした「日本上流文化圏研究所」が町役場内にでき,1999 年には町から独立して活動を行うようになり,そして 2006 年には法人格をもった NPO として認められ,地道な活動が続いてきている。後藤研究室卒業生の複数人の方は家族を含めて 10 名が早川町に居住して,地域創生に現在でも直接かかわっている(お一人の事例は https://www.tv-asahi.co.jp/rakuen/contents/backnumber/0287/;2022 年 2 月 7 日アクセス で紹介されている)。別の一人は集落支援員という立場で給与保障を受けながら,「焼畑文化プロジェクト」を立ち上げ,山村文化の継承をテーマにワークショップを展開している。頼もしい限りである。非常に長い時間をかけて方言として全国各地に分化して広がった日本語であるが,明治維新以後のいわゆる近代化と経済発展により再び共通語への統合が起こってきており,方言の中には「奈良田言葉」のように伝承できる世代が限られてくる中で,伝承を受ける世代が集落を離れてしまい,消滅に近づいているものも存在する。地域創生は経済活動の活性化を人やモノの都市との交流を通じて図ろうとする事例が多いと思うが,対象地域が培ってきた伝統文化を新たな交流の中で継承していくことができたとしたら素晴らしい。日本語の方言は時間をかけて地方が育んできた文化の一部だと思うが,言葉は時代を経るにつれて変わるものでありそれを永遠に保持はできないので,可能な限り記録してその変遷に対する理解を深めることが重要であると思う。「多様性と社会的包摂」の重要性が認識されている今こそ,方言として多様に分化した日本語についても時間の経過による遷移を観察しつつ,その背景にある地域社会の変遷に関心を持つ中で地域創生にかかわって行けたとしたら非常に喜ばしいと思っている。参考文献稲垣正幸・清水茂夫・深沢正志(編)(1957)『奈良田の方言 甲斐民俗叢書 3』山梨民俗の会金田一春彦(1973)『言葉の歳時記』新潮文庫金田一春彦(1977)『日本語方言の研究』東京堂出版金田一春彦(1988)『日本語 上』岩波新書(げんま まさひこ,早稲田大学社会科学総合学術院)
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