早稲田日本語教育実践研究 第10号
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3.キャリアを考える難しさ4.今後の課題とに,「働く」とは何かという問題について考える活動がある。さらに,学習者は「学びのエキシビション」において,「PBL で学ぶアカデミック・キャリア 7□8」(科目の詳細は尹・寅丸 2021 参照)の科目履修者と協働しつつ,会のテーマ設定や実施計画の策定,事前準備,当日の運営等すべてを行っている。各学期の学習者は検討を重ねながら,自分たちで会を作り上げていくことになる。 開講した春学期は毎回手探りの授業となったが,授業後インタビューでは,学習者からよい学びがあったという評価を得ることができた。学習者が指摘した主な学びとは,これまで経験したことのない活動を経験し,自身のキャリアについて考えるきっかけになったという点と,それが自身のキャリア選択に役立ったという点であった。 しかし,学習者も教員も,キャリアについて考えることの難しさを感じた実践でもあった。その理由として,主に 3 点が挙げられる。第一に,それまで自分自身について掘り下げて考えたことのない学習者がいたということである。国内外問わず,そのような学習者は多いと考えられるが,自身と社会の接点を模索する前に,自分自身について知る活動と思索の機会が必要であった。第二に,社会知識が希薄な学習者がいたということである。異なる社会背景を持つ学習者が日本事情について詳しくないのは当然であるが,社会そのものに対する意識が希薄であり,授業内容を根本的に考えさせられることになった。第三に,複数の言語運用能力があり,家族の理解が得られるケースでは,進路の選択肢が多く,何をすべきか戸惑っている学習者がいたことが挙げられる。 本科目は 2021 年度から開講した科目である。特にコロナ禍に開講したこともあり,授業形態や学習環境等,今後どのように進展していくか予測できないことも多い。しかし,前節で示した困難点への対応について十分検討するとともに,毎回の実践を振り返り,学習者の声に耳を傾けながら,実践をよりよくしていきたいと考える。参考文献寅丸真澄・尹智鉉(2021)「早稲田大学の日本語学習者が育むべき「ビジネス・コンピテンシー」とは何か」『早稲田日本語教育実践研究』第 9 号,35-42.尹智鉉・寅丸真澄(2021)「早稲田大学の日本語学習者が育むべき「アカデミック・コンピテンシー」とは何か」『早稲田日本語教育実践研究』第 9 号,27-33.(とらまる ますみ,早稲田大学日本語教育研究センター)早稲田日本語教育実践研究 第10号/2022/61―62 62

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