早稲田日本語教育実践研究 第10号
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1.実践の目的2.実践の概要寅丸 真澄実践紹介早稲田日本語教育実践研究 第 10 号   科目名:「PBL で学ぶビジネス・キャリア 7-8」  レベル:初級 1・2 /中級 3・4・5 /上級 6・ 7・8  履修者数:6 名(2021 年春学期) 曖昧で混沌とした現代を生き抜くための能力とは,どのような能力であろうか。筆者は,それを「どのような時代や場所,環境においても,それぞれの文脈の中で多様な能力を統合的に活用しつつ他者と協働して課題に取り組み,個人と社会の双方の価値を創造し,自己実現を果たしていけるような能力」であると考える。そして,社会に飛び立つ学生には,大学生活を通してそのような能力を向上させ,それらをもとに自身のキャリアを自律的,計画的に作り上げていく力,つまりデザインする力を身に付けさせることが重要であると考える。無論,これらの学生の中には,日本語学習者(以下,学習者)も含まれる。本科目は,日本語教育の観点から,そのような学習者が自身のキャリアについて意識し,デザインしていけるように支援するための実践である。なお,本稿では,ライフ・キャリアを前提としたワーク・キャリア,すなわちビジネス・キャリアを「キャリア」と呼ぶ。 本実践の目標は,次の 3 点である。(1)ビジネス場面の基礎的,汎用的なやりとりを日本語で行うことができる,(2)自身を取りまく社会,働く人々,自己に対する理解と考察を通して,「私」のキャリアについて自律的に検討することができる。(3)他者と協働しながらプロジェクトを遂行し,その成果を公表し,振り返ることができる。 以上の目標に示すように,本実践では,仕事をしていく上で必要な日本語能力の向上,キャリアをデザインするための社会・他者・自己の理解と自律性の育成,基礎的汎用的能力としての対話や協働を重視している。そして,その中でも特徴的なのは,キャリアについて考えるための活動や期末プロジェクト等,学習者が自身で考え,設計し,他者を巻き込んで実践するプロジェクトが多いことと,かつ,それらが有機的に結びついていることである。授業中の複数のプロジェクトの最終成果は,「学びのエキシビション」という期末プロジェクトで完結するように設計されている。本実践は,テーマ性をもった小規模のプロジェクトと,その集大成としての期末プロジェクトから成る PBL(Project-Based Learning:課題解決型学習)(寅丸・尹 2021)であると言える。 具体的な活動としては,たとえば,学習者が経験を語り合う場を作って自分たちの経験を振り返り,自身の特性や価値観に対する気づきを得るライフストーリーの活動がある。また,社会人に「働く」ことをテーマにしたインタビューを行い,そこで聞いてきたことをも61「私」のビジネス・キャリアをデザインする

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