早稲田日本語教育実践研究 第10号
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3.本科目の意義4.今後の課題常に役に立ったという声もあった。また,他の学生の発表を聞くことは,あまり情報を持っていない学生にとっては,様々な業界や企業について知る機会となり,既に希望の業界や企業が定まっている学生にとっても,視野を広げるチャンスとなっている。最近は,留学生の就職が増加しているためか,企業研究の対象企業で働いている外国人の友人から聞いたという話や,インターンシップの経験をふまえてまとめられたものも散見され,以前より留学生の就職がより身近なものになっているのを実感する。 本科目を開講した当初,日本語科目として設置する意義があるのか悩んだことがあった。開講前は,就活に関する日本語を中心に指導するつもりであったが,開講してみると,実際に必要なのは日本語よりも,就活の内容に関する指導であった。就活についての指導はキャリアセンターや民間の機関でも受けられるし,インターネット上にも様々な情報がある。「就活」を,キャリアコンサルタントでもない筆者が,日本語科目として,担当する意味はあるのだろうかと自問していた。そんな時,ある履修者から「キャリアセンターは,自分には敷居が高く,ネットの情報は多すぎて,逆にどこにアクセスしていいかわからない。だから,この科目があってありがたかった。」というコメントがあった。また,「周囲には就活する学生がいないので孤独だったが,このクラスに来れば,仲間がいる。」「レベルの高い他の学生の発表を聞いて刺激を受けた。」という学生も少なくなかった。つまり,本科目は,一人で就活を行うのが困難な学生へ「場」や「仲間」など,ネットワークを形成する機会を与えているという点で,意義があることがわかった。特に,就活を終えた複数の学生が言っていたように,就活は,仲間と共に励まし合ったり,情報共有したりしたほうが効率のいい「団体戦」である。教師の役割は,学生が本科目を通して,ネットワークを形成したり,自ら就活に必要な日本語を獲得できるよう,さらに,自らの人生や留学生活を振り返ったり,将来的なキャリアデザインを設計できるようファシリテートしてくことであると考える。 昨年からのオンライン授業により,履修者同士でコミュニケーションをとるのが難しくなった。意識的に Zoom のブレイクアウトルームで話し合いを行ったり,Moodle のフォーラム(ネット上の掲示板)で情報交換の場を設けてみたりしたが,対面の時ほどうまくいっていない。これは,本科目に限らないことであろうが,ネットワーク形成が目標の一つである本科目においては,もう少し何か仕掛けを考えていきたい。(つばな ともこ,早稲田大学日本語教育研究センター)早稲田日本語教育実践研究 第10号/2022/59―60 60

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